生きるヒント

◆一人娘が英国人との結婚、渡航を希望。手放しで喜べず…(63歳・女性)

63歳女性です。都内の外資系銀行に勤める一人娘(33)が帰省した折、結婚を考えている相手がいることを報告してくれました。主人は喜び、私も同じ思いでした。翌月、娘がわが家に連れてきたのは、外国の方でした。穏やかな方で、来年には本社のあるイギリスに帰国しなくてはならないことも隠さずに話してくれました。誠実な人柄は伝わってきたのですが、娘が日本を離れて暮らすことを思うと、親として悲しくなりました。留学経験のある娘ですが、国際結婚は文化の違いなどハードルが高いと聞きます。主人は私以上に落ち込んでいます。娘の幸せを願っていますが、手放しでは喜べない心境です。

◇回答者 園浩一

 手塩にかけて育ててこられたお嬢さんの結婚を心配されていたところに朗報が届き、心から喜ばれたことでしょう。ところが予想外の事態を受け入れられず、戸惑う心境が相談の内容から伝わってきました。

 いつか迎える娘の結婚を夢見てきた親としては、自分が想定した相手ではなかったことに落ち込んでしまいがちです。これが他人さまのことであれば、割り切って喜んであげられるのでしょうが、自分のこととなると、受けとめることは容易ではありません。

 仏教では、とらわれの心を「我執」と言い、それが苦を生み出す根本の原因としています。「妙法蓮華経譬諭品第三」で「諸苦の所因は 貪欲これ本なり 若し貪欲を滅すれば 依止する所なし」と示されているように、お嬢さんの結婚が自分の思い通りにならなかったこの苦は、自分のとらわれによって生じていると認識することが大切です。

 それでも、子を思うゆえに執着がわき、それを振り払うのは簡単ではありません。「無量義経十功徳品第三」に「愛著ある者には能捨の心を起さしめ」という一節があります。能捨の心というのは、良しあしを分別するということで、ここでは執着を取り払い、仏の見方で現象をとらえていくということになります。

 「我執」がなくなると心が軽くなり、周囲に目を向けられるようになります。すると、相手はどんな気持ちでお嬢さんを選んでくれたのか、相手やご両親も自分と同じように不安ではないだろうか--そうしたことに思いを寄せられるようになります。そこで導かれる答えは、「心配するより信頼する」です。一念が定まると、もう安心です。その一念が三千世界(すべてのこと)に影響するからです。

 お嬢さんと遠く離れたとしても心を通わせ合い、いつまでも幸せを祈る自分になれるとともに、お嬢さんを大切にしてくれる誠実な方とのご縁に感謝し、同じ仏の子である異国のすべての人たちも必ずお嬢さんの善き友になってくれるはずだと信じられるようになります。目の前のものに感謝していく、頂いたご縁に感謝していくという実践は、「少欲知足」の生き方につながっていくのだと思います。

 旅立つ日の近いお嬢さんに、あなたのこれまでの人生で、人から言われて一番うれしかった言葉を贈ってあげてください。そうすればきっと喜ばれ、勇気を持って一歩を踏み出されることでしょう。ご家族の幸せを念じています。