多発テロ被災者・難民救援と平和構築

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●日本ムスリム協会会長・樋口美作氏に聞く (2001.11.7)

「米国同時多発テロ事件」発生以後、世界的にイスラームに対する関心が高まっています。一方で、イスラームへの知識不足からくる誤解や偏見も少なくありません。イスラームとはどんな宗教なのか。
その教えとは。イスラームへの理解を深めるため、樋口美作・日本ムスリム協会会長に、宗教者としての立場から、イスラームの教えや今回の一連の事件に対する思いを伺いました。
樋口氏


───今回のテロ事件に対する率直な思いをお聞かせください。

多数の市民を巻き込んだテロ事件の発生に、大変な衝撃を受けています。イスラーム原理主義過激派の関与も取りざたされており、同じイスラーム信者として、私をはじめ、世界の多くの信者が心を傷めております。
この事件で一番危ぐするのは、イスラームが、テロや暴力を受け入れる宗教だと思われることです。イスラームの啓典『クルアーン(コーラン)』には、「善良な人を殺すことは地球の善良な人をすべて殺すに等しい」という厳しい言葉があります。イスラームでは、こうしたテロ事件ははっきりと否定しているのです。テロは、非常に罪の重い犯行であります。
テロの背後にいるとされるイスラーム原理主義過激派集団も、非常に限られた狂信的な集団であって、一般のムスリム(イスラーム教徒)とはまったくかけ離れた存在です。ですから、その一派をもってこれがイスラームだと理解して頂きたくないのです。ほとんどのムスリムは平和を目指す、素朴な人々ばかりです。また、マスコミでよく紹介される「イスラーム原理主義」は、イスラームの原点に回帰しようというものであって、それ自体は決して危険なものではありません。過激になるのがいけないのです。

───イスラームの教えはどのようなものでしょうか。

イスラームの教義の中心となるのは、「六信五行」です。「六信」は6つの信じるべきことで、「アッラー(神)・天使・啓典・預言者・来世・天命」。「五行」は、5つの義務行為で、「信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼」です。「六信五行」の最初に挙げられるのが「アッラー」で、宇宙に存在するすべてを創造し、森羅万象の運行を司る唯一の創造主を「アッラー」として私たちは信仰しているのです。そのアッラーがムハンマドに啓示したのが『クルアーン』で、現世に生きるための具体的なガイダンスとしています。
また、イスラームは、人間同士のつながりをとても大事にします。家族や隣近所、共同体のためにという連帯意識がとても強く、困っている人を助けるのを最高の美徳としているのです。
『クルアーン』は絶対に不変ですが、その解釈の仕方は非常に多様です。学派や国、地域、時代によって微妙に違っていることも念頭に置かなければいけないと思います。

───イスラームについての誤解や偏見がかなりあるように見受けられますが......。

日本は、これまで欧米の、いわゆるキリスト教文明の吸収に偏り過ぎて、アジアやイスラームを直接学ぼうという姿勢に欠けていたと思います。そこに、イスラームに対する誤解や偏見が生まれる大きな原因があったのではないかと思っています。
日本には、イスラームの古い、マイナスのイメージが根強く残っています。しかも、マスメディアに登場するイスラームの姿は、とかく非常に過激な部分だけです。バーミヤンの仏像破壊や、今回のテロのような映像がテレビで大写しになると、やはり、イスラームは暴力を容認する、非常に野蛮な宗教だということになってしまうのではないでしょうか。

───イスラームへの理解を深めるために、私たちはどのような努力が必要でしょうか。

今、イスラームの本が非常に売れているそうです。また、若い人たちは最近どんどんイスラーム圏に旅行して、日本に今欠けている温かい、アットホームな雰囲気に触れ、感動して帰って来られます。イスラームに関心を持ち、イスラームを肌で感じることで、次第に誤解も解けていくのではないでしょうか。
また、私たちの布教活動がこれまで足りなかった面もあるかもしれません。こうした機会にこそ、イスラームについてしっかりと説明するのも私たちの義務だと思っています。
イスラームは、非常に調和を重んじる教えです。『クルアーン』には『法を越えることは神さまは愛でたまわない』という章句があります。考え方や行動が過激になってはいけないということです。そういった中庸の生活を、家庭を中心に、人々とのお付き合いの中で心掛けていくことで、徐々に人々にも理解して頂けるものと思っています。

───米英両軍によるアフガニスタンへの武力攻撃をどのように思われますか

先ほども申し上げましたが、テロ行為自体は罪です。犯罪者は正当な手段と手続きで制裁を受けなければなりません。しかし、報復や復讐は、恨みからの発想ですから、避けるべきです。しかも、その武力攻撃によって新たに市民が犠牲になりつつあります。これ以上の攻撃はやめて、別の交渉手段に訴えるべきだと思います。
テロ、報復攻撃という暴力の連鎖を断つには、まず、その原因に目を向ける必要があります。イスラーム世界は、歴史を見てもお分かりのように、パレスチナ問題や植民地支配など、欧米列強の都合によって、長い間、民衆は苦しんできました。今もその問題は終わっていません。そうした根本的な原因を見極め、解決への努力を重ねることで、テロ問題の解決にもつながっていくのではないでしょうか。

───平和的解決に向け、宗教者にはどんな役割があると思いますか。

政治には限界があります。国益など、それぞれのしがらみがあるからです。その点、宗教者は一歩下がって、心の問題を全面に出した貢献ができるのではないでしょうか。いわば、コーヒーのミルクのような、物事を和らげる役割が宗教者にはあると思っています。
物事が混乱したり、争ったりするのは、お互いが欲を出し合い、それぞれが"法"を越えるためです。法を越えないためには、対話が必要です。それはまさに、イスラームの教えでもあります。イスラームはもともと合議制の社会であり、それはイスラームの伝統的な美徳なのです。
『クルアーン』に、「いろいろな種族、部族に分かれたのは、お互いが理解し合うためだ」という言葉があります。そうした違いを共通認識として、対立から対話へと進むことこそ、宗教者の姿勢であると確信しています。
その意味で、佼成会が推進する宗教協力・対話活動も、平和主義に基づく、非常に尊いものだと思います。その中で築かれた世界の人脈を通じ、イスラームでも大切にする「ヒューマンネットワーク」を十分に生かして、平和へのはたらきかけをリードして頂きたいと期待しております。

しかし世界各地で頻発する国家間の対立や民族同士の争いに対し、宗教者はあまりにも無力でした。時には宗教者が戦争に加担し、自ら戦火の火種を生み出すことさえありました。そうした現実の中で庭野開祖は「宗教協力」と「人類皆信仰」を唱え、同じ志をもつ他宗教の人々と共に世界各地を奔走します。あらゆる宗教者の力を結集し、世界に平和への道を切り拓いていくためでした。

樋口美作(ひぐち みまさか)
1936年、新潟県生まれ。宗教法人日本ムスリム協会会長。早稲田大学第一法学部卒業後、エジプト政府留学生として、カイロ・アズハル大学に留学。日本航空(株)に入社後、エジプト、イラク、サウジアラビアに勤務する。1963年、イスラームに入信。