HOME > 活動
> 取り組みと提言
> 生命倫理
●クローン人間誕生に対する声明 (2003.4)
|
中央学術研究所は2003年4月15日、小泉純一郎首相に対し、「クローン人間誕生に対する声明」を提出しました。同日、今井克昌所長が首相官邸を訪問し、安倍晋三官房副長官に手渡しました。今回の声明は、2002年末、スイスに本拠を置く宗教団体の関連企業が「クローン人間を誕生させた」と発表したことを受け、クローン技術の人への応用に対する意見をまとめたものです。クローン人間を創り出すことに懸念を表明し、生命の尊厳が守られるよう求めています。なお、声明は遠山敦子文部科学大臣にも送られました。
クローンとは、人為的な操作によって誕生した、特定の生物とまったく同じ遺伝子情報を持つ生物のことを言います。人間の場合では次のようになります。 まずAという人間の体細胞から取り出した核を、卵細胞の核と入れ替えます。卵割後、胚(人クローン胚)に成長させ、代理母の子宮に着床させます。生まれた子供は、体細胞提供者であるAとまったく同じ遺伝子情報を持つことから「クローン人間」と言われます。 クローン技術はもともと、畜産動物の品種改良と安定した生産のために開発されてきました。1996年、イギリスのロスリン研究所で、哺乳類では世界初となる体細胞クローン羊「ドリー」が誕生。その後、世界各地で牛やブタ、ヤギなどのクローンがつくられました。この技術が人間に応用された事例としては、2001年、アメリカの企業が卵細胞に体細胞の核を移植後、初めて人クローン胚まで成長させたと発表したことが挙げられます。胚は実験後、廃棄されたため、人として育っていくかは現段階で未知数です。 動物実験の場合でも、妊娠、出産に至るまでの確率は極めて低いと言われています。たとえ妊娠しても、死産、あるいは先天障害を持つケースが多く、安全性はまったく保障されていません。 こうした個体を生み出す生殖目的のほかに、難病治療を目的としたクローン技術の研究も行われています。クローン人間を誕生させることは、多くの国で禁止されていますが、治療目的の利用に対しては賛否両論あり、治療と倫理のどちらを優先させるかで意見が分かれています。 国際的な流れは、クローン人間を創り出すことを禁止する方向にあるものの、クローン人間の誕生を推進しようと考えている科学者や医師が存在するのも事実です。2002年12月27日、スイスの新興宗教団体「ラエリアン・ムーブメント」の関連企業が「クローン人間を誕生させた」と発表しました。科学的根拠は示されておらず、専門家の間では信憑性は低いとされていますが、教団側はクローン人間を創り出す姿勢を変えていません。イタリアの医師も、不妊治療の一環としてクローン人間づくりを公言しています。 今回の声明では、クローン人間を創り出すことを自然の摂理に反した行為と指摘。「いのちの尊厳を冒とくすると同時に、生命倫理の根本を揺るがすもの」と位置付け、決して認められるものではないとの立場を明らかにしています。 また、「人為的操作によって遺伝的に同じ人間を複製することは、生命を『モノ』化し、人類の生存そのものまで脅かす」と、無制限に生命操作が行われることへの懸念を示し、人体が資源や実験場として際限なく利用されることに危惧の念を表しました。その上で、政府に対して生命の尊厳が保たれるよう要請しています。 日本には、クローン人間を創り出すことを禁じた「クローン技術規制法(ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律)」があります。しかし、クローン人間に成長しうる「人クローン胚」の作製については、同規制法のもとに作られた研究利用のための「特定胚の取扱いに関する指針」によって暫定的に禁止されているに過ぎません。 声明では、このことにも触れ、人クローン胚の作製を法律によって明確に禁止するよう要望。さらに、国連などの国際機関で条約を制定し、世界規模で「クローン人間創出を禁止」するよう求めています。 15日、首相官邸を訪れた今井所長は安倍官房副長官に、クローン人間を創り出すことに対する中央学術研究所としての考え方を説明。これを受け、安倍副長官は、「政府としてはクローン人間を創り出すことを認めるつもりはない」と応え、小泉首相に声明文を届けると述べました。 なお、同研究所の生命倫理への取り組みは1987年、脳死とそれに伴う臓器移植問題をめぐる基礎研究に始まります。1991年には、「生命倫理問題研究会」を発足。1994年には、同研究会名で「『臓器の移植に関する法律案』に対する見解書」を発表し、国会議員らに配布しました。
クローン人間誕生に対する声明
中央学術研究所所長 今井 克昌
2002年12月27日、「クローン人間の女児を世界で初めて誕生させた」とのニュースが世界を駆け巡りました。スイスに本拠を置く宗教団体「ラエリアン・ムーブメント」によって設立されたクローンエイド社のフランス人科学者が、記者会見し、発表したものであります。現時点では、科学的根拠が示されず、真偽のほどは明確になっておりません。しかしながら、めざましい科学の進歩をみる限り、今後もクローン技術の研究が継続され、発展していくことは、疑いの余地のないところであります。 「いのちの尊厳」を教えの根幹に据える宗教者として、私たちは、このような現実を決して看過することはできません。自然の摂理に反し、人為的操作によってクローン人間を創り出すことは、いのちの尊厳を冒涜すると同時に、生命倫理の根本を揺るがすものであると考えます。 私たちは、「『臓器の移植に関する法律案』に対する見解書」(平成6年6月1日)の中で、「この世における生命個体は、それぞれが唯一のものであり、固有のものであり、有限のものであり、神仏からの所与のものであります」と意見表明いたしました。人為的操作によって遺伝的に同じ人間を複製することは、生命を「モノ」化し、人類の生存そのものまで脅かす危険を秘めております。 わが国では、平成12年12月、「ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律」を制定し、クローン人間の誕生を禁止しました。しかしながら、この法律に伴う研究指針(平成13年12月、「特定胚の取扱いに関する指針」)によりますと、クローン人間につながりかねない「クローン胚作製」については、将来に研究の余地を残し、明確にこれを否定しておりません。私たちは、わが国が人クローン胚作製の禁止を明確化すると同時に、関係の国際機関がクローン人間創出を禁止するための法規制を速やかに実現するよう、ここに強く要望するものであります。
合掌 |