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無舌居士(むぜつこじ)

幕末から明治にかけての噺家(はなしか)・三遊亭円朝(さんゆうていえんちょう)師匠は、自作の人情噺や怪談噺で人びとの人気を博しましたが、この円朝師匠は天竜寺管長の滴水(てきすい)和尚から「無舌居士」という居士号を贈られています。

噺家にとって舌ほど大切なものはありません。その噺家に滴水和尚は「舌頭(ぜっとう)を離れて話す」という公案(こうあん)を与えたのです。それは、技巧に走って舌先だけで話すことを戒(いまし)め、ただ無心に、自分がしゃべっているという意識さえもなく噺と一つになる噺家をめざせ、といった意味だったのでしょう。当時、得意の絶頂にあった円朝師匠が、それを流暢(りゅうちょう)な舌に頼って驕(おご)ってはならぬという戒めとさとったときに、滴水和尚は円朝師匠に無舌居士の号を贈ったのでした。

私たち宗教者も、うっかりして真心の伴わぬ舌先だけの説法になっていることはないか、自らを戒めたいものです。マンネリ化した建て前だけの言葉で話していることはないか、常に自分を振り返って戒めなくてはなりません。口先だけで人を真の覚醒(かくせい)に導くことはできません。心したいものです。

庭野日敬著『開祖随感』より