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心通わせてマラソンに挑む諏訪教会の北澤さん親子


『佼成新聞』10月4日号の「教会まちサンガ・クローズアップ」に掲載された諏訪教会の北澤宏之さん、母・康衣さん親子のマラソンにかける思いを紹介します。

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陸上競技との出合い
街灯の明かりがぼんやりと辺りを照らす。静まり返った長野県諏訪湖畔のジョギングコース。北澤宏之(ひろし)さんと母親の康衣さんは、真っすぐ前を見つめながら、リズムよくストロークを刻んでいた。
「ペースが上がり過ぎているよ」「もう少し肩の力を抜いて」。宏之さんのアドバイスが飛ぶ。康衣さんは宏之さんの息遣いを感じながら、親子で心を通い合わせる喜びをかみしめた。
康衣さんが宏之さんと一緒にマラソンに取り組み始めて5年。今の目標は、18日に長野県大町市で開催される「第26回大町アルプスマラソン」への出場だ。親子で週2回、練習に励む。
大町アルプスマラソンはアップダウンの激しいコースで知られ、毎年全国各地から約2000人のランナーが集まる。北澤さん親子は今年、10キロコースに挑戦する。これまで宏之さんはフルマラソンやハーフマラソンを走ってきた。康衣さんも、大会に4回参加し、5キロを一度、10キロを三度完走している。
宏之さんが生後6カ月で脳性まひと診断された時、康衣さんは大きなショックを受けた。「右半身にまひがあります。歩けるかどうかは1歳までが勝負」という医師の言葉を聞き、懸命に宏之さんの足の曲げ伸ばしや、マッサージなどのリハビリにあたった。1歳5カ月で宏之さんが自分で立ち上がった時は、うれしくて涙が止まらなかった。
宏之さんのまひはその後も残り、頻繁につまずくことから、怪我(けが)が絶えなかった。そんな宏之さんが陸上競技に出合ったのは、小学校4年生の時だった。陸上クラブで短距離走や走り幅跳びをするたび仲間についていけず、悔しい思いをした。〈いつの日か追い抜いてやる〉。生来の負けず嫌いに火がついた。
小学校6年生の時に、右足のアキレス腱(けん)を伸ばす手術を行ったことで、歩行状態は、はるかに改善された。進学先の中学校で毎年「強歩大会(長距離走)」が行われると知り、大会に向けて、鉄下駄(げた)を履いたり、リュックサックに鉄アレイを入れたりして走り、体を鍛えた。1年後の大会で学年250人中7位の成績を収めた。「努力すれば必ず結果が出る。そう確信し、自信がつきました」と宏之さんは振り返る。
19歳のとき、青年部員から誘われ、諏訪湖マラソンに出場。ハーフマラソンを無事に完走し、その後も県内のマラソン大会に数多く出場してきた。

二人の練習 家族が支え
「一緒に走らないか」。5年前、宏之さんは康衣さんにそう伝えた。しかし、当時の康衣さんは、変形性膝(しつ)関節症のため、階段も降りられないほどの痛みを抱えていた。体力にも自信がない。康衣さんは即座に答えることができなかった。
そんな時、ホームヘルパーの資格取得のために通っていた教室の講師から言われた。「息子さんと向き合う良い機会ですよ」。振り返ると、それまで長年仕事優先で、じっくりと宏之さんの心に寄り添えていなかった。〈ひざがだめになっても走ろう〉。そう決意した。
宏之さんと練習を始めると、ひざの痛みで、50メートルも走れなかった。その時、康衣さんの脳裏に浮かんだのは、いつも逆境をはね返してきた宏之さんのたくましい姿だった。
〈私も宏之に負けられない〉。痛みをこらえ、歩きながらでも練習を続けた。そんな康衣さんに宏之さんは「ひざをかばいながら走るから痛いんだよ。もっと太ももを上げると楽に走れるよ」とアドバイスをした。〈マラソンをする宏之はこんなにも輝いているんだ......〉。康衣さんは、初めてそう気づき、心から喜びが込み上げた。
康衣さんの走行距離は、日を増すごとに伸びていった。ひざ周りに筋肉が付き、痛みも次第になくなり、関節症は完治した。走る喜びが康衣さんの心を満たした。
康衣さんと宏之さんを支えるのは家族の存在だ。教会でのお役、ホームヘルパーの仕事で多忙な康衣さんを思いやり、夫の唯至さん、三男の延之さん、義母の君予さんが進んで家事を手伝い、応援する。延之さんがマラソンの伴走をすることもあった。夜は必ずみんなで食卓を囲む。家族のありがたさを感じるひとときだ。
夜の諏訪湖--。宏之さんと康衣さんは1時間ほどの練習を終えると、湖畔に腰を下ろし、ペットボトルのお茶を飲みながら、走り終わった充実感をかみしめる。「私はもう59歳だからねぇ」。ふと漏らした康衣さんに宏之さんが「お母さん、まだ59歳だよ」と答えた。康衣さんは驚いたように、宏之さんを見つめた。すべてを肯定的に感謝で受け止める。その大切さを改めて宏之さんから学んだ。
「宏之は障害を持って生まれてきましたが、そのおかげさまで、私を親に育ててくれました。何事にも努力し、現実と向き合おうとする宏之は私のお師匠さんです」と康衣さん。宏之さんは「今年は距離は短いけど、お母さんと一緒に走れるのが楽しみ。周りに流されずに、タイムを狙うよりも無事に完走したい」と抱負を語る。
(2009.10.02記載)

親子で完走! 「第26回大町アルプスマラソン」

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長野県大町市で「第26回大町アルプスマラソン」(同実行委員会主催)が10月18日に行われた。北澤宏之さんと康衣さんは、家族やサンガの支えもあり、親子5回目の無事完走を果たした。
全国から2692人のランナーが参加した大会で、宏之さんは10キロ一般男子の部に出場。262人中131位、タイムは1時間11分55秒だった。「折り返し地点まで、周りに流されず行けてよかった。後半の上り坂では、日頃の成果が出せて、良い走りができました。私も頑張りましたけど、お母さんの方がよく頑張ってました。来年はハーフに挑戦したい」と語った。
康衣さんは10キロ一般女子の部に出場し、102人中85位。タイムは1時間12分53秒。「走っている最中に、教会のサンガの皆さんの顔が浮かんできて後押ししてくれました。感謝の心で走ることができ、生きている実感を味わえました」と笑顔で語った。

(2009.10.30記載)