えりに縫い込まれた宝石
話し手:西日本教区(青年担当)小林 宏至さん
(妙法蓮華経「五百弟子受記品第八」より)
あるところに、貧しい一人の男性がいました。
もう何日も食事がとれず、はらぺこの状態です。
困った男性は、ふと親友のことを思い出しました。
その家は大金持ちで、その上、親友はとても優しい心の持ち主でした。
男性が訪ねていくと、親友は男性を快く家に入れ、
「さあ、遠慮なく食べるがいいよ」とたくさんのごちそうでもてなしてくれました。
お酒や料理をたいらげ、満腹になった男性はその場に横になって眠ってしまいました。
男性のやすらかな寝顔を見て、親友はほっとしました。
しかし、これからすぐに旅に出なければならず、男性が起きるのを待ってはいられません。
気持ちよく眠っている男性を起こすのは気の毒だと思い、親友は、静かに出かけることにしました。
「そうだ!君がこれからもう二度と生活に困らないように、ここに宝石を縫い込んでおいてあげるからね」。
親友は、男性の着ている衣のえりの中に、一生楽に暮らせるだけの宝石を縫い付けたのです。
目が覚めた男性は、自分が眠っているあいだに親友が旅に出たと聞き、お礼を言えなかったことをとても残念に思いました。
そして、何も知らず、また元の苦しい生活に戻りました。
数年後、男性と親友はばったり道で再会しました。
男性が相変わらずやつれて、貧しい身なりをしていることに驚いた親友は、いつかの夜、えりに宝物を縫い付けたことを話しました。
男性は宝物に気づかず、ずっと苦しい毎日を送っていたのです。
「男性」は、私たち。「親友」とはお釈迦さまのことを指します。
そして、えりに縫い込まれた宝石は、私たちの心の奥にある、仏さまと同じ心、「仏性」です。
お釈迦さまは、いつも私たちに「早くあなたの中の仏さまの心に気づきなさい。そして安心した生活を送りなさい」とメッセージをくださっています。