話し手:東京教区(青年担当) 木塚 佳代子さん
(妙法蓮華経「信解品第四」より)
ある国に、大金持ちの長者がいました。長者には息子がいましたが、幼いころに家を飛び出したまま何十年も
帰ってきません。長者は国中を捜し歩きましたが見つからず、ある町に住みついて豊かに暮らしていました。
いっぽうの息子は、あちこちをさまよい、貧しい暮らしをしていました。
そしてある日、父の家とは知らずに長者の屋敷の前で足を止めます。
長者は、一目で息子だと分かりましたが、息子は「自分のような人間はこの場にふさわしくない」と、その場を立ち去ろうとします。
長者は、召使いを息子のもとに行かせ、屋敷の便所やドブの掃除をするようしむけます。
息子も「それならば」と、その日から働くようになりました。
わが子の様子を見ていた長者は、自ら身体を汚して息子に近づき、一緒に働きながらこう語りかけました。
「私はおまえの親のような気がする。私がおまえを助けてやるから安心して働き続けなさい」。
息子はまじめに働き、やがて財宝がおさめられている蔵の管理を任されました。
最初は「自分のような人間にできるだろうか」と不安げだった息子でしたが、
そうしたいじけた心もしだいにとけていきました。
数年後、死期が迫った長者は、多くの人を部屋に集め、そこに息子を呼んで、実の親子であることを告げました。
そして、すべての財産が息子のものであると宣言したのです。
息子は、長者が自分の父親であったことを喜ぶと同時に、長い時間、自分を見守り、大切な宝物に気づかせてくれたことに、
いままで味わったことのない喜びを感じたのでした。
長者は「仏さま」、息子は「私たち」です。
仏さまはいつも私たちをわが子として見守り、たくさんの宝物を用意してくださっているのです。