話し手:中部教区(青年担当) 八方 克哲さん
(ジャータカ物語より)
むかし、ある森に、ウサギとカワウソとサルとキツネが仲よく暮らしていました。
四匹の中でも、特にウサギは頭がよく、いつもほかの三匹に対して
「ずるいこと、悪いことはしていけないよ」
「困っている人がいたら助けてあげようね」
と話していました。
あるときウサギは、ほかの三匹に声をかけて、次の日を修行の日にしようと呼びかけました。
そんなときに、よろよろと弱った老人が四匹の目の前に現れ、
「食べるものを自分だけのものにしないで、この老人のために捧げよう」と決めたのです。
次の朝、カワウソは大切にしまっていた魚を差し出し、老人に「どうぞ食べてください」と声をかけました。
キツネは、人間が食べ残した肉やチーズを取ってきて老人に渡しました。
木登りの得意いなサルはマンゴーの実をたくさん採ってきました。
ところがウサギは何も探すことができません。ウサギは老人に頼んで薪を焚いてもらいました。
そしてこう言いました。
「私には何も差し上げるものがありません。せめて私の肉を食べてください」。
ウサギは煌々と燃え上がる火の中に飛び込んだのです。
ところが火の中に身を投げたウサギはちっとも熱さを感じません。やけど一つ負わないのです。
ウサギが不思議な気持ちでいたとき、目の前の老人がたちまち帝釈天の姿に変わりました。
「ウサギよ。私はおまえを試したのだよ。『困っている人がいたら助けてあげよう』といつも言っているおまえの心が本当かどうかを確かめたのだが、おまえの心は本当だった。おまえのような優しい気持ちがたくさんの人たちに伝わるように、月に刻んでおこう」。
こうして月の表面には、ウサギの姿が浮かぶようになりました。