生きるヒント

◆ 定職に就かず、アルバイトで生活する息子の将来が心配(53歳・男性)

息子(25)は大学卒業後、知人の経営する建設会社に就職しました。しかし、多くの業者が出入りする建設現場での人間関係、時に年上の人にも指示しなければならない責任の重さに耐えかね、1年で退職しました。以来、飲食店でのアルバイトで生活しており、定職に就いていない息子の将来を考えると心配になります。

妻と相談し、息子に就職のアドバイスをしようとしても、口やかましく言われたくないのか、聞き流されてしまいます。息子に奮起してほしいというのが願いです。父親としてどう触れ合っていけばいいか教えてください。

◇  回答者 秀島康郎

息子さんの将来を考えれば考えるほど心配になる。厳しい社会で生き抜かれた父親であるあなたが、意欲的でないわが子の姿に気をもみ、案ずるお気持ちは、私にもよく分かります。

 

しかし、息子さんが奮起するために、どのような触れ合いや言葉かけがいいかと「特効薬」を探しても、「相手を変える特効薬」などありません。事態を好転させたいお気持ちは本当によく分かりますが、この問題を「息子の問題」「息子が変わらなければならない問題」と受けとめている限り、事態を好転させることは難しいと言えます。相手の心情をこちらが理解することなしに、どんなに言葉を尽くしてアドバイスしたとしても、相手が心を動かすことは、まずあり得ません。

 

「無量義経徳行品」に『大乗の事業を扶蔬増長して、衆をして疾く阿耨多羅三藐三菩提を成じ、常住の快楽、微妙真実に、無量の大悲、苦の衆生を救わしむ』という一節があります。「扶蔬増長」とは枝葉が分かれ成長・発展していくさまを表す言葉であり、文末の大悲の「悲」は人の苦しみを取り除いてあげたいという心のことです。「扶蔬増長」(伸ばし、発展)するためには、「大悲」の心で接することが大事で、これにより苦を抱えた人を救うことができると釈尊は説かれています。

 

建築会社に就職した息子さんには、生き生きと働く理想の自分像があったと思います。しかし、現実は思い通りにいかず、大きな挫折感を味わったに違いありません。自信喪失が尾を引き、息子さんは今も葛藤にあえいでいるのではないでしょうか。その苦しみ、悲しみ、心の底からのあえぎを、こちらが受けとめていく「大悲」こそが大切で、それによってのみ相手を「成長・発展」させることができるのです。

 

息子さんの「扶蔬増長」を願うのであれば、まずは父親であるあなたが、息子さんの苦しみ、悲しみを心の底から受けとめる「大悲」が重要です。このたびの問題は「息子さんを変える問題」ではなく、息子さんの心とどれだけ一体になれるかという、実は「あなた自身の問題」であり、これによって親子が真の絆を強めることができる仏さまからの手配だと言えます。

 

息子さんの胸の内を知るには時間がかかるかもしれません。話を聞こうとしても、最初は敬遠されるでしょう。しかし、<おまえと共に生きたい>という祈りをもって接し、その思いが通じたとき、あなたが発する言葉は息子さんの心に必ず響くはずです。親と子が一体となった時、子はそれを大きな“後ろ盾”として、自らの力で歩み出します。

法華経にはそのように説かれています。法華経を信じ、ご安心して実践してください。