生きるヒント

◆父が、がんで闘病1年。限られた時間を、共に豊かに過ごすには……(38歳・女性)

父(64歳)が、がんで余命半年と宣告されてから1年が過ぎました。本人への告知もしています。現在は自宅におり、母と私、妹で世話をしています。離れて暮らす弟もたびたび来てくれます。父はずいぶん痩せ、意思に反していろいろなことができなくなりました。家族は残された時間を大切にしようと前向きなのですが、私は弱っていく父を見るのがつらく、帰宅を遅らせたり、ゆっくり話をしなかったりと逃げてばかりです。また、正社員でなく、結婚の予定もない私は、きょうだいの中でもずっと父の心配の種でした。そうした負い目もあり、二人きりになるのを身構えてしまいます。今はいずれ別れが来るという恐れや焦りを抱え、ただ立ちすくんでいる状況です。限られた時間、父と豊かに過ごすにはどのように心を立て直せばよいのでしょうか。

◇回答者 松本貢一

 相談を寄せてくださってありがとうございます。

 病床にあるお父さんを前に、現実から逃げたくなる、また、恐れや焦りで立ちすくんでしまうというあなたの気持ちは痛いほどよく分かります。大切な人の「死」を前にしたときには、誰もがそうした思いを抱えるものです。ましてやずっと自分を慈しみ守ってくれる存在だった親であればなおさらです。あなたが特別なのではありません。まず、そのことをお伝えしたいと思います。

 弱っていく姿を見たくないと思うのもお父さんへの愛情、そして尊敬の念が深いからなのではないでしょうか。自分を否定したり、人と比べたりする必要はありません。<私はこんなにもお父さんのことを思っているんだ>と受けとめてください。

 家族皆が力を合わせ、お父さんの看護にあたっていらっしゃることが本当に尊いと感じます。お父さんがこれまでどれほど家族に愛情を注いでこられたか、皆にとってお父さんがどのような存在かがよく分かります。

 また、あなたがいろいろな思いを抱えながらも決して自分のことだけにとらわれていない点にも感心します。体の自由が利かなくなっていくお父さんの苦しみを理解し、看護に励むお母さんや妹さん、弟さんの姿もよく見ていらっしゃる。素晴らしいご両親のもとで育てられたからこそと思わせて頂きました。

 「どのように心を立て直せばよいか」とお手紙にありますが、私はそのままの心を大事にしてほしいと思います。心を立て直したり、切り替えたりというのではなく、改めてこれまでお父さんから頂いた愛情の一つひとつ、その場面場面を思い返してみてはどうでしょう。それが「父と豊かに過ごす」ことになると思います。

 直接顔を見ることができなければ、ご宝前に向かって気持ちを伝えてください。もし、ゆっくり話ができるようになったときには、お父さんを失う悲しみの大きさも素直に語ってほしい。涙を見せてもいいと思います。お母さんや妹弟に、今の正直な気持ちを打ち明けてみるのもよいかもしれません。

 「心配の種」だったことに負い目を感じるとありますが、お父さんがあなたに向けてくださったいくつもの「心配」は、親子の大切な絆です。親子だからこそ、お父さんの娘としていのちを頂いたからこそ結ばれた二人の絆なのです。

 たくさんの愛情とともに、その原点となるいのちを頂いたことへの感謝を心に留め、お父さんとの日々を過ごしてくださることを願ってやみません。もし、直接お礼を言うことができたなら、それ以上の豊かな“親子の時間”はないと私は信じます。