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2016年3月19日

庭野平和財団 『若者の貧困問題』テーマに公開シンポジウム


庭野平和財団による公開シンポジウムが3月19日、佼成図書館視聴覚ホールで開催されました。テーマは『若者の貧困問題――包摂か排除か 現場からの声』。約70人が参加しました。

同シンポジウムは、子供や若者の貧困問題の現状を学び、課題や具体的解決策を探ることが目的です。
当日は、NPO法人「さいたまユースサポートネット」の青砥恭代表が基調講演に立ちました。青砥氏は冒頭、各地で発生した未成年による殺人事件に触れ、その原因には虐待や育児放棄といった劣悪な家庭環境で育ったことに加え、「学校の中退による居場所の喪失」があると指摘。さらに、その背景として貧困問題の存在を挙げ、両親の学歴、所得と子供の貧困率の相関関係や、若者の自殺率などを示しながら、学歴や経済発展を至上とする競争社会が若者を追い詰めていると説明しました。
その上で、自らが代表を務める「さいたまユースサポートネット」による地域若者サポートステーションや学習支援教室などの活動を紹介。心が傷つき、行き場を失った若者が安心して集える場所をつくる重要性を強調し、「若者が一度の失敗で人生のチャンスを失ってしまう世の中にしないため、何度失敗しても寛容な心で受け入れられる“居場所”を地域社会の中につくらなければならない」と課題を示しました。
このあと、パネルディスカッションが行われ、青砥氏に加え、NPO法人「POSSE」の三家本里実氏、フリーライターの樋田敦子氏が登壇。認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の稲葉剛理事がコーディネーターを務め、「ブラック企業」問題や女性の貧困などについて意見を交わしました。

 

基調講演
NPO法人「さいたまユースサポートネット」代表 青砥恭氏

子供たちに"居場所"を

私が教員になった1980年代は、中学校や高校が荒れていて、中途退学する生徒が多くいました。しかし、仕事はいくらでもあったので、そういう子供たちを引き受ける場所がありました。ところが、90年代にバブル経済が崩壊すると働く場所が無くなり、若者たちは行き場を失って孤立するようになりました。
現在、高校中退者は、年間10万人近くに上ります。若者の貧困と孤立を招いている大きな要因は中退です。さらに、労働市場からの排除と、家庭や学校での居場所の喪失により、社会性を獲得するための場がないことが挙げられます。この点を改善していかなければ日本の貧困問題は解決されないと考えています。
私は2011年に教え子の学生たちとボランティア団体「さいたまユースサポートネット」を立ち上げました。主な活動として月曜日から金曜日まで、さいたま市内の10教室で生活保護世帯や一人親世帯の中学生と高校生を対象に学習支援事業を行っています。400人の生徒が通っています。
また、中学生から39歳までを対象とした若者自立支援ルームを開いています。引きこもりや不登校の生徒、生活保護受給者、障害がある人など行き場のない若者に居場所を提供し、社会性を獲得してもらうためです。地元の自治会の運動会や夏祭りといったイベントに参画するなど、さまざまなプログラムを実施しています。
現在、日本では6人に1人の子供が貧困状態にあります。学校を卒業し、仕事に就き、結婚して子供を育てる----普通に人生を楽しむことを想像できない社会にしたのは、私たち大人の責任です。また、15歳から24歳までの日本の若者の自殺率は、90年代には先進国の中で最低でしたが、2010年にトップになりました。これには、若者たちが終わりなき競争社会で生きなければならないという状況が大きく関係しています。
中学で不登校や経済的な理由などで長期欠席する生徒は、約17万人。小学校から中学校に進学すると、その数は7、8倍に増えていることになります。要因は先述した、終わりなき競争社会によるものです。
特に、貧困層では学力の低い子供たちが少なくありません。中には高校生でアルファベットが書けず、九九が分からない生徒もいます。貧しいために給食費が払えず、修学旅行に行けない子もいます。みんなと同じように部活動もできません。貧困とは、みんなと同じように暮らせないこと----それが子供たちにとっての貧困問題です。こういう子供たちがきちんと生きていけるように支え、応援することが私たちの役割だと思っています。
お茶の水女子大学の耳塚寛明教授が調査した、家庭の社会経済的背景(家庭の所得と両親の学歴)と学力の関係を表した研究結果によると、最も裕福な家庭で、自宅で全く勉強しない子供の各教科の平均正答率は60.5ポイントでした。一方で、最貧困層の家庭で全く勉強しない子供の正答率は43.7ポイントでしたが、毎日3時間以上勉強する子供の正答率は58.9ポイントにまで上がり、ほとんど変わらないところまで学力差を埋められるという結果が出ています。両親の所得や社会階層によって、生まれながらにして格差の影響を受け、その経済的な差を埋めるのは容易ではありません。だからといって、格差を放置したら日本社会は確実に崩壊します。
こうした若者たちに対し、悩んだ時に駆け込める居場所を地域コミュニティーの中につくることが重要です。貧困層の子供たちに学習支援や就労支援、居場所を提供する取り組みが増えることを願っています。格差を埋めるため、地域社会や国のみならず、全ての人が知恵を出し合い、努力することが何よりも大切です。

 

パネリスト
NPO法人「POSSE」代表 三家本里実氏

労働環境の改善に向けて

私たちの活動は、若者の労働や生活に関する相談に応じ、相手の問題に合わせて労働組合や弁護士などを紹介し、問題解決のサポートをすることです。年間1500件以上の相談があり、日々、若者の不安や助けを求める声に耳を傾けながら、活動しています。
若者の早期退職について以前は、「根性が足りない」「我慢強くない」といった若者の意識の弱さが原因とされてきました。しかし、近年では、「ブラック企業」という言葉が広がっているように、若者ではなく、会社側に問題がある場合が多くなってきました。
4月から6月は、相談が増え、4月に入社したばかりの新入社員から「キツイから続けられない」「もう解雇されてしまった」といった連絡が入ります。入社して数カ月で辞めてしまうと、貯金がなく、中には生活保護受給者にならざるを得ない人もいます。また、辞めずに働き続けたとしても、長時間労働やモラルハラスメントによって、身体的、精神的な疾患を抱えてしまう人も少なくありません。
ブラック企業に勤めて悩んでいる人に対して、「そんな企業だったら、辞めたらいいじゃないか」という声をよく耳にしますが、会社に退職願を受理してもらえなかったり、生活の糧を失ってしまったりと、容易には辞めることはできないのです。
さらに最近は、「ブラックバイト」が問題視されています。ブラックバイトとは、特に学生に対し、残業代の不払い、テストのための休みを申請しても拒否されるなど、学校生活や日常生活に支障をきたすような働き方をさせるアルバイトです。
その対策の一つとして、私たちは大学や高校で労働法の出張授業を行っています。現在の学校教育では、労働法が教えられないため知識に乏しく、違法であっても気づきません。若者が少しでも「おかしい」と声を上げられるように、この事業を進めています。
これからも、国の政策の改善や法改正につながるよう、一件、一件の事件に真摯(しんし)に取り組み、労働問題の解決のために活動を続けていきます。

 

フリーライター 樋田敦子氏

女性を取り巻く課題に心配りを

新聞社を退職後にフリーランスのライターとなり、多重債務で消費者金融に追われる主婦を取材しました。以来、「今の日本に貧困があるのか」と疑問を抱き、子供と女性の貧困を中心に取材活動をしています。そこで分かったのは、ささいなことで誰でも貧困に陥る可能性があり、その状態が周りの人から見えにくいということです。
今、20歳から64歳までの働く独身女性は3人に1人が貧困下にあるといわれています。女性の場合、高校や大学を卒業して就職した後、結婚、離婚、妊娠、介護など、生活の変化によって簡単に困窮に陥ることがあります。例えば、取材で出会った30代前半の女性は非正規雇用で働いており、収入は月の手取りが13〜15万円で、残業代は付きません。そうした中で乳がんになり、治療費を工面する苦労に加えて精神的な不安を抱え、困窮していました。
貧困女性の出産、育児についてもお話ししましょう。熊本県に「こうのとりのゆりかご」、通称「赤ちゃんポスト」がありますが、赤ちゃんを預ける人のほとんどが貧困状態にあります。また現在、望まない妊娠で生まれた赤ちゃんを遺棄する事件が各自治体で起きています。妊娠してから一度も検診を受けずに、出産直前に病院に駆け込む「飛び込み出産」というケースもあるのです。それらの背景にもやはり貧困が隠れていて、こうした状況を受け、望まない妊娠のための相談事業を始めた自治体もあります。
一方、貧困家庭を取材していると、多くの場合で虐待問題に直面します。貧困と虐待は表裏一体の問題です。そこで私は、産む側と育てる側を分離する、養育里親や養子縁組の取り組みを取材し、紹介しています。いったん、子供を里親などに預けることで虐待の心配もなくなりますし、親も静養するなり、働き口を見つけるなり、生きる力を取り戻すことができます。どこかで負の連鎖を断ち切らない限り、貧困の危険性はなくなりません。
現代の若者、女性の抱えている貧困は見えません。人と接する時には想像力を働かせて、「この子は困っていないかな」と見守って頂けたらありがたいと思います。