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2002年05月22日 カースト制度を超えて  UUAインドプロジェクトを視察

立正佼成会と交流の深いユニテリアン・ユニバーサリスト協会(UUA)が支援する「インドプロジェクト」を視察するため、先ごろ、酒井教雄参務をはじめとする本会視察団が現地を訪れました。インドではカースト制度の影響が根強く残り、今も一部の人々に対する差別や抑圧が続いています。同プロジェクトはそうした人々の人権回復とインドの社会改革を目指すもので、確実に成果をあげています。本会も人間の尊厳性という観点から同プロジェクトへの支援を検討し始めています。インドの人権問題の現状と同プロジェクトの内容を紹介します。

【カースト制度の歴史と現状】
「カースト制度」はインド古来の身分制度で、バラモン(聖職者)、クシャトリア(王族、武士)、バイシャ(商人、農民)、スードラ(使用人)の4階層に大別されます。これらはさらに「サブカースト」として3000~4000種類に細分化されます。
現在、憲法上同制度は消滅していますが、数千年にわたるインド社会の伝統とヒンズー教信仰との関わりから、今もなお人々の間に階級意識が根強く残っています。特にバラモン、クシャトリア、バイシャの上位3カーストとスードラとの差別は厳格で、職業、婚姻、居住地、店の出入りなど生活全般において厳しい制限が設けられています。
また、カースト外には「ダリツ」と呼ばれる人々が存在し、支配階級層から差別や搾取、虐待を余儀なくされています。ダリツの中でも特に弱い立場に置かれているのは女性や子供たちです。UUAが支援するインドプロジェクトもこうした人々に対する取り組みが中心になっています。プロジェクトを進める主な活動団体を紹介します。
【SEWA(自己雇用女性協会)】
女性の経済的自立を目的に女性自身の手で組織された団体です。悪条件下で仕事に従事する女性が生活協同組合を組織することで、雇用主や為政者との交渉力を高め、雇用と収入の安定を図ります。また、エンパワーメント(全人的能力の向上)を通して女性の地位向上、社会貢献を目指します。

《SEWA銀行》
公的銀行からのサービスを受けにくい女性たちに対して預金、貸し付け、保険業務を行います。一時的な資金調達ではなく、生涯にわたる"友人"として個々のニーズに沿ったきめ細かなサービスを提供します。

《SEWAアカデミー》
技能、知識の習得や自己自信を深めるためのトレーニングを実施します。リーダー
シップトレーニング、対話トレーニング、ワーカートレーニング、リサーチトレーニングなど11のコースがあります。
《SEWA社会安全保障サービス》
 ヘルスケア施設での診療及びヘルスケア訓練、結核抑制プログラム、子供ケアセンターの運営、相互保険制度の運営などを行います。
 こうした活動の結果、女性たちが自らの力で生活水準の向上や子供に対する教育機会の提供を実現し、自立への自覚と自信を深めています。
【ナブサージャン】
ダリツ出身の弁護士によって設立されたインド初のダリツ団体です。支配階級層から受ける不当な抑圧に対し、司法上の手段を通して人権擁護活動を進めています。支配階級層の執拗な抵抗に遇いながらも、勇敢で地道な活動が実を結び、土地問題や労働力の搾取、児童労働、暴行事件などこれまでダリツが泣き寝入りせざるを得なかった諸問題が少しずつ解決に向かっています。
《ナブサージャン職業訓練所》
ダリツの新たな就業機会を創造するため職業技術訓練を行います。訓練科目は、自動車運転、自動車整備、電気技術、旋盤技術などです。
【ヴィダヤックサンサッド】
バラモン出身のヴィベク・パンヂッド夫妻が、自分たちの身分を放棄し、虐げられた人々の解放を目指して設立した運動体です。長い抑圧の歴史の中で、下位カーストに位置づけられる人々の間に自由、自立の概念自体が薄れているため、意識改革を重視し、主に教育活動に力を入れています。仮設小学校や寮制学校、集中短期寮制学校など独自の施設を設立し、子供たちの教育にあたっています。
また、法律が正常に執行されないことが人権に関する大きな障害であることから、ダリツの組織化と同時に政府や司法へのはたらきかけを活発に行い、人々の交渉力を高めています。運動体自体から14人の州議員も輩出しています。
ヴィベク氏自身、解放運動を進める中で支配階級層から暴行や脅迫を受けています。危険と隣り合わせの活動ですが、ヴィベク氏は「次の世代の人々がより良い社会に暮らせるためにも、私たちは努力を続けていかなくてはいけないのです」と明言しています。
以上の活動を通して、これまで著しく虐げられてきたダリツの人々が、少しずつ自己の尊厳性に目覚め、その回復のために立ち上がり始めています。その動きを一層広げていくためにも世界中の人々、特に宗教者の積極的な関わりが求められています。
現地を訪れた根本昌廣・立正佼成会外務部次長は「インドで生まれた釈尊は、いのちの尊厳、人間の平等を説く仏教を広めました。それはカースト制との壮絶な闘いでもあったと思います。仏教徒である私たち会員は釈尊の弟子としてこの問題に真剣に取り組む責任があるのではないでしょうか」と語っています。
本会では今後、UUAと連携を図りながら、一食平和基金を通して同プロジェクトへの参画を検討しています。また、WCRP(世界宗教者平和会議)国際委員会人権委員会などでの討議を視野に入れながら、世界規模での宗教者による取り組みも模索しています。

(2002.05.22記載)