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2002年08月02日 大きな成果を残したIARFハンガリー大会

7月28日から6日間にわたりハンガリーのブダペストで開催されていたIARF(国際自由宗教連盟)の「第31回世界大会」が2日、閉幕しました。大会テーマは『宗教的自由~今日の世界におけるヨーロッパの軌跡』。21世紀初の今大会は、過去30回にわたり積み重ねてきた諸宗教間の絆をより強めるとともに、「宗教的自由」という人権課題に対する具体的取り組みへの第一歩と位置づけられ、積極的な討議がされました。大会には、ヨーロッパをはじめ、アジア、北米など25カ国から約650人が結集。本会からは、山野井克典理事長を団長に、70人の会員が参加し、講演会やワークショップ、法座形式のサークルグループなど、30のプログラムに臨みました。大会最終日に行われた総会では、これまで3年ごとに行われてきた世界大会を今後4年ごとに変更することが決定。次回は2006年に開催されることになりました。開催地は未定。会長は2004年までアイマート・ヴァン・ハーウィネン現会長が行うことになりました。また、6年間にわたり、執行理事、国際評議員を務めた酒井教雄参務の後任として山野井理事長が国際評議委員、財務委員長に就任しました。

《ヨーロッパの軌跡》
ヨーロッパでの世界大会は、東西冷戦終結後、1990年のドイツ・ハンブルグ以来、12年ぶり2度目の開催となります。EU(欧州連合)加盟間近のハンガリーを舞台に、参加者たちは、ヨーロッパが数世紀にわたって経験してきた国家による宗教への弾圧、自由獲得の歴史について学びました。
オランダ改革派教会前事務総長のカレル・ブレイ博士は講演の中で、ヨーロッパの起源から、キリスト教中心の国家、分断の時代から現代にいたるまでの宗教事情について説明。また、「宗教と政治」「イデオロギーと宗教」などをテーマに多数のセッションが行われ、根強く残っている宗教の課題について提示されました。
《宗教的自由》
今大会には、信仰している宗教が多数派の宗教や国家から認められず、抑圧や差別を受けている人たち、いわゆる少数民族や弱小教団と言われる宗教の代表者らも参加し、現状を訴えました。バハイ教信者のザリン・カルドゥエルさんは、開会式の席上、「ある地域では、バハイ教の信者であるがゆえに教育の機会を奪われ、失業し、社会保障も得られません。宗教の自由が保障された世界に生きている人には、この苦しみが理解できないでしょう」と語り、宗教を否定されていると同時に、基本的な人権をも奪われている現状を語りました。
また、31日に行われた「国際パネルディスカッション」の中で、台湾・佛光山のビクスニ・チュウ・メイ師は、女性ゆえに出家僧(比丘尼)になることを許されない国が今も数多くあることを発表しました。
《9・11》
「セプテンバー・イレブン」。大会中、幾度となくこの言葉が語られました。昨年9月、米国で発生した「同時多発テロ事件」以降の宗教者の役割についても焦点があてられました。
国連特別報道官のアブデルファッタ・アモール氏は講演の中で、この事件がイスラム教に対する偏見を増幅させた点に触れ「宗教の名のもとに行われたテロ行為によって、世界の多くのイスラム教信徒が基本的人権を侵害されたまま、口を閉ざしている」と語り、報道の責任について言及しました。
また、連日、行われていた各宗教による「祈り」でも、このような悲惨な事件が2度と起きないようにとの真心が込められました。
ユニテリアンの祈りに参加したイスラム教の男性は、「憎しみや殺意が人間の心からなくなるよう、安全な共存のために祈ります」とキャンドルを灯していました。
《行動志向》
アンドリュー・クラークIARF国際事務総長は、今大会の特徴を次のように語りました。
「IARFは第二段階に入りました。諸宗教間の対話促進と同時に、世界の課題に取り組んで行かなければなりません。宗教的自由を奪われ、迫害や弾圧を受けている人のために取り組む一方、宗教の名のもとに行われている暴力や殺戮を阻止しなければならないのです」
IARFは2001年から2007年までの戦略企画として、「宗教的自由」に焦点をあてた具体的なプログラムを実施します。その一環として今回、6つのテーマ(①宗教教育②諸宗教対話③自発的実践規範の促進④情報技術の活用⑤プログラムデザイン⑥戦略企画)に基づいたレクチャーが行われました。
参加者は6つの中からいずれかのテーマを選択し、3回にわたるワークショップを通じて具体的な案を提出。最終日に行われた「地域会議」でその案がまとめられました。
《サークルグループ》
本会の法座をモデルにした諸宗教間の交流の場「サークルグループ」では、連日、固定したメンバーによる触れ合いが持たれました。小林康哲・北関東教区長、片岡里予・目黒教会長、伊藤雅由・教務部次長(儀式行事グループ)の3人がリーダー(法座主)としてグループをまとめ、参加者は交流の中で自らの信仰観や平和観について語りました。
《本会の祈りと文化プログラム》
31日、本会による「祈り」が行われました。仏教の歴史や本会の教えについて外務部スタッフが説明したあと、山野井理事長を導師に読経供養を行いました。
また同日夜に行われた「文化プログラム」では、佼成筝曲部が『黒田節による幻想曲』『千鳥曲』など4曲を披露。世界各国の民謡を集めたメドレーは、会場の歌声を誘い、歓声と盛大な拍手が送られました。

特集「新たな出会いと感動を生んだIARFハンガリー大会」

7月28日から8月2日までハンガリーのブダペストで行われたIARF(国際自由宗教連盟)第31回世界大会は、国や宗派を超えた新たな出会いと感動を生みました。6日間にわたるプログラムにさまざまな形で参画した本会使節団の様子を紹介します。

《赦し》
「どうやって気持ちを整理したのですか?」。調布教会から参加した女性会員は、サークルグループ(法座形式の話し合い)の中で、フランク・ロバートソンさん(66)にそう語りかけました。ロバートソンさんは、同時多発テロ事件で前妻を失いました。「タワー1」の、飛行機が激突したちょうど真上に、前妻が務めていた保険会社がありました。「映像で見るまではジョークだと思っていました」。淡々と語るロバートソンさんの隣で彼女は、涙をとめることができませんでした。
「家族を失ってなぜ穏やかでいられるのでしょう?」。次の質問にロバートソンさんは答えました。「私は長い間IARFの会議に参加し、多くの宗教の方と触れあってきました。テロを起こしたのはイスラム教過激派組織ですが、だからといってすべてのイスラム教信徒が悪いのではない。そう自分に言い聞かせ、近くに住むイスラムの人たちと積極的に関わりました。娘も、イスラム教の友だちと一緒に妻の追悼式をしました。妻が亡くなったことは悲しい。けれども、自分や娘の心にある『赦す』心を誇りに思っています」。サークルグループが静かな拍手で包まれました。
《平和の象徴》
プログラム最終日。通訳として参加したランゲージサービスの女性が、サークルグループのメンバーに折り紙を配り始めました。英語で説明しながら、丁寧に折りヅルを教えていきます。ジェニー・グリフィスさんは、出来上がった3羽のツルを、紙コップの中に大事そうにしまいました。「日本を思い出すわ」。
ジェニーさんは1984年の東京大会に参加しました。その際、広島を訪れ、「原爆の子の像」にたくさんの千羽ヅルが捧げられていたのを見ました。また、自身も折りヅルをプレゼントされ、今も部屋の鏡台に飾ってあると言います。「自分で折ることができてうれしい。私自身の平和の願いを大切に飾っておきます」。隣で見守っていた彼女は拍手をしながら、「イッツ・ビューティフル」と声援を送りました。
《輪になって踊ろう》
プログラム2日目の夜、ハンガリーの文化プログラムが行われました。ハンガリー民謡の生演奏が会場に響きわたる中、泉州教会の青年部員が席から立ち上がり踊り始めました。すると、次から次へと若者たちが席を立ち、ステップを踏み始めました。会場の後ろで踊っていた青年たちも、拍手に合わせて会場の前へと進みました。席にはほとんど人がいない状態になりました。
「言葉は通じなくても、楽しい時間を一緒に過ごせたことが宝。でも、まさか自分が一番最初に踊り始めるなんて思ってもいなかった」。プログラムは大幅に延長。参加者たちはいつまでも輪になって踊っていました。
《決意》
大宮教会の青年部長は、「宗教教育」をテーマにしたワークショップに参加しました。彼は公立小学校で3年生の担任を務めています。公立では宗教教育を行ってはいけないため、子供たちにどのように「宗教」を伝えていけばいいかに悩んでいました。
このワークショップでは『ヴァーチューズ』という教育プロジェクトが紹介されました。これは、人間に潜在的に与えられた「美徳」を見つけ、よいタイミングで相手に伝え続けていくことで、その部分が伸びていくというものです。刑務所などで実施されているそうです。
参加者には『平和的』『寛大』『勇気』など52項目が書かれたペーパーが配られ、参加者同士がともに語り合うなかで、お互いに相手の「よいところ」を52の中から探していく作業を行いました。
青年部長は、ワークショップ終了後、講師を務めたリンダ・ポポウさんに、英語で次のように語りました。「立正佼成会では、人にはすべて仏性があると教えています。この教育はその教えとまったく同じものです。教師はとかく『こういう人間になりなさい』と子供に押しつけがちですが、すでに持っているものを探して認め続けることが大事だと感じました」。そして、ワークショップのアンケート用紙の『実践目標』の欄に『公立学校における宗教教育』と記しました。
《山野井理事長、諸宗教者と交流》
山野井理事長は、連日のプログラムの合間を縫って、諸宗教者をはじめ、国連関係者や学者などと積極的な交流を図りました。アイマート・ヴァン・ハーウィネンIARF会長、アンドリュー・クラーク同国際事務総長、ウイリアム・シンクフォードUUA(ユニテリアン・ユニバーサリスト協会)会長とオリビア・ホルムズ師はじめ、今回、基調講演に立ったアブデルファッタ・アモール国連特別報道官とも親しく語り合いました。
コスタリカから参加したWCRP(世界宗教者平和会議)国際管理委員のゼアトリス・シュートレス師とは、伝統宗教をはじめとするマイノリティー(少数派)をいかに守っていくかに話題が及びました。
また、ハンガリー国営放送の取材を受け、本会とIARFとのつながり、またWCRPについても説明し、宗教者が協力して世界平和を築いていくことの重要性を語りました。
山野井理事長は、大会の感想として「同時多発テロ事件後初の大会ということもあり、参加した宗教者の『今こそ平和のために宗教者が協力しなければ』という意識を強く感じました。また、世界には、まだまだ信仰を否定されている人たちがいることを知り、宗教者の対話と理解をもっと深めていかなければならないと感じました」と語りました。

(2002.08.30記載)