News Archive

2003年05月08日 第20回庭野平和賞贈呈式

庭野平和財団(庭野日鑛総裁、庭野欽司郎理事長)の「第20回庭野平和賞」贈呈式が5月8日、東京・新宿のセンチュリーハイアット東京で行われました。今回の受賞者は英国のクェーカー教徒で、核兵器の廃絶や武器輸出の削減に取り組んできたNGO(非政府機関)「オックスフォード・リサーチ・グループ(ORG)」の代表、プリシラ・エルワーズィ博士(59)。「非暴力」を信条とし、対話による平和構築を進めながら、紛争解決や国際的な軍縮交渉に尽力してきました。贈呈式では、スチュアート・ジャック駐日英国公使はじめ識者、各宗教の代表者ら220人が見守る中、庭野総裁から同博士に賞状と副賞の顕彰メダル、賞金2000万円(目録)が贈られました。

エルワーズィ博士は1943年、英国スコットランドに生まれました。大学卒業後、フランスや北アフリカの難民支援活動を手始めに、人権擁護活動や平和研究に取り組んできました。
1982年、第2回国連軍縮特別総会への参加を機に、核兵器の廃絶、武器輸出の削減・規制を通じて世界の安全保障を高めようと「ORG」を設立。核兵器に関する重要事項の決定者がだれであるかを丹念に調べました。この調査結果を踏まえ、軍縮を望むNGO関係者だけでなく、各国の防衛省の官僚や軍事計画者、戦略専門家、政治家など軍事政策の鍵を握る人々とも対話を重ね、核兵器の削減や武器輸出の削減・規制を進めてきました。
さらに、昨年、紛争の解決を図るためのプロジェクト「ピース・ダイレクト」を立ち上げ、紛争の最前線で、非暴力的な手段により問題解決を目指すグループへの支援を展開しています。
同博士の活動には、「質素」「平等」「共同体」「平和」を倫理規範とするクェーカー教徒の信仰的理念が息づいています。多様な立場の人と敵対せず、信頼を醸成しながら、核軍縮や紛争解決を模索できたのは、同博士の人格や信仰観によるところが大きいと言われています。こうした非暴力主義に徹した平和への努力と功績が高く評価され、今回の受賞となりました。
当日の贈呈式では、庭野理事長より選考経過が報告されたあと、庭野総裁から賞状と副賞の顕彰メダル、賞金2000万円の目録が同博士に手渡されました。
次いで、庭野総裁があいさつ。国家や民族、宗教、文化の違いを超え、対話を基本に問題解決を図る同博士の姿勢に敬意を表し、「エルワーズィ博士が進めておられる非暴力的な手段による諸活動は、いのちに対する限りない敬意、慈愛に満ちたものであります」と述べました。
続いて、遠山敦子文部科学大臣(御手洗康・同事務次官代読)、スチュアート・ジャック駐日英国公使、工藤伊豆・日本宗教連盟理事長=神社本庁総長=から祝辞が披露されました。その中でジャック公使は、同博士を中心に核軍縮や紛争解決に取り組んできたORGの活動に触れ、「英国政府としては、紛争解決や軍縮に関して、ORGの主張や意見に同意できない場合もございます。しかし、政府高官の中には、ORGが主催する会議やイベントに参加することを通して、専門的な立場から意見を語り、多くの人々と議論することに大きな価値を見出している人が少なくないのです」と、同博士の平和への努力をたたえました。
このあと、同博士が登壇し、記念講演を行いました。
午後の懇親会では、天理教の飯降政彦表統領が祝辞を述べました。

第20回庭野平和賞 受賞記念講演(要旨)
プリシラ・エルワーズィ博士

この度、庭野平和賞を頂戴いたしますことは、私にとり大きな名誉でございます。世界が戦争に揺れ動いているこのときに、平和のために命を懸ける人たちの名において、お受けさせて頂きます。
本日、私は、平和を脅かす深刻な問題のうち、イラクの危機から学び、叡智をもって臨む必要のある4つの点について述べたいと思います。
第1に、戦争以外の選択肢が残されていたにもかかわらず、イラク戦争が開始されたことです。米英の政権は、武力行使以外の選択肢を真剣に検討しませんでした。一例を挙げると、米国の5人の教会指導者は、ブッシュ大統領とブレア首相に、国連の委任を受けた多国籍軍の存在を背景に査察を強化しイラクの軍縮を進めることなどを進言しました。私自身、本年1月にバグダッドでイラクの閣僚と会った後、米英両政権の内情に通じる人々と討議し、非暴力的解決を提案しました。しかし、政治指導者ともマスメディアとも、その後の進展はありませんでした。戦争というシナリオは、長期計画として策定されていたのです。
第2に、イラク問題が「プロジェクト・フォー・ザ・ニュー・アメリカン・センチュリー」の文脈でのみ明確に理解できる点です。これは単なるネオコンサーバティブ(新保守主義)の一理論ではなく、今まさしく起こりつつある一つの事実です。米国の最高統治権が保障されるグローバルな戦略概念で、ブッシュ大統領にとり、イラクの政権交代は最終目標ではなく、戦略の始まりに過ぎません。
第3に、軍事力によらずに、残忍な独裁政権を倒す実例を提示することが、今後期待されるということです。西側の政府とメディアの十分な支援があれば、東欧での民主主義革命と1980年代のフィリピンでの人民蜂起から学んだ経験を生かし、"ピープルパワー"による抵抗運動は可能なはずでした。また、国連は、より多くの査察官を送り、大量破壊兵器だけでなく市民の権利改革に関する調査が可能であったと思われます。
そして第4の点が、政治家、メディアを含めほとんどの人々が非暴力的手段とその効力についての明確な考えをいまだに持ち合わせていないことです。最初になすべきは、「非暴力とは何であり、非暴力でないものは何か」を検討することです。「戦闘」(暴力)では、あなたは他者を殺さなければ命を失うというリスクがあります。一方、「非暴力」では、あなたは他者が一人たりとも殺されないために命を懸けるのです。厳しい訓練と深い信念の裏づけが非暴力には必要です。非暴力は、暴力的で残酷な人々の心の深いレベルに働きかけ、暴力以上の効果を発揮します。
非暴力の信奉者は、自発的な暴力の使用を原則として否定し、思いやりと勇気を持って行動する決意に置き換えます。マハトマ・ガンジー翁、マーチン・ルーサー・キング牧師、アウン・サン・スーチー女史、ネルソン・マンデラ大統領がこの力を用い、また、"鉄のカーテン"を引き摺り下ろし、旧東欧の「ビロード革命」(内戦を伴わない革命)を実現した陰にも、この力が働いていました。
カリフォルニア大学のマイケル・ネーグレー教授の推定では、世界人口の3分の1近くが、不満や抗議の原因を正すために、何らかの形で非暴力的手段を行使しています。ネーグレー教授は言います。「"ピープルパワー"の概念によれば、奮い立つ民衆の力は国家の権力に勝る。なぜなら、国家は国民の合意と協力に依存するからである。市民が蜂起する時、国家にはそれを抑圧する力がない。しかし"ピープルパワー"は氷山の一角に過ぎない。真の非暴力は、私の理解では、個人の力である。それは、たった1人の人間の持つ力なのである」。
非暴力を実践し、また支えていく。これは静かな潮流ではありますが、恐怖を背景とした軍事力よりも、速く、強力な流れであると私は信じています。
この1年間、私たちは、全世界で人々が立ち上がり、戦争の妥当性を疑問視するのを見守ってきました。歴史的でグローバルな民衆の対話を通し、全世界が多様な立場の見解に耳を傾け、戦争の正当性を問いただしているのです。

「第20回庭野平和賞」受賞者 プロフィル

「オックスフォード・リサーチ・グループ」所長
プリシラ・エルワーズィ
1943年、英国のスコットランド・ガラシールズ生まれ。大学卒業後、フランスや北アフリカの難民キャンプで働く。南アフリカやフランスで人権活動に携わった後、79、80の両年、ユネスコの女性問題コンサルタントを務め、平和研究や国際関係における女性の役割についてリポートを発表。82年、第2回国連軍縮総会への参加を機にNGO「オックスフォード・リサーチ・グループ」を設立した。軍縮推進者だけでなく、防衛省の官僚、戦略専門家、政治家とも対話を重ね、核兵器の削減や武器輸出の制限・規制を進めてきた。反核平和戦略の権威として知られ、ノーベル平和賞にノミネートされた。

(2003.05.16記載)