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2003年11月14日 JEN 木山啓子事務局長インタビュー

イラク戦争後の復興支援を進めている「特定非営利活動法人ジェン(JEN)」は、頻発するテロや略奪などで現地の治安が悪化する中、現在も首都バグダッドを拠点に活動を行っています。国連が撤退を始めているとも報じられます。今後のジェンの活動の方向性、支援の根底にある精神などを木山啓子事務局長に改めて伺いました。

――イラクでは危険な状況が続いています。ジェンは今後、どのように活動を展開するのですか。
テレビや新聞などマスコミで報道されているように、現地は非常に厳しい状況にあります。しかし、現段階で、撤退するつもりはありません。今の危険性は、テロ攻撃に遭うか遭わないかという確率の問題です。その場所でテロに遭う確率が100%だと分かれば、瞬時に撤退します。しかし今は、正しい情報の収集と判断に細心の注意を払い、テロに遭遇する確率を低くするよう努めれば、まだ何とか活動を続けられると考えています。そのため、現地の国際スタッフは、今まで以上に外出を控えています。
8月19日の国連事務所爆破事件は、現地で活動する人々だけでなく、イラクの人々にも衝撃を与えました。ジェンのイラク人スタッフも、「やっと平和がくると思っていたのに」とショックを受けました。イラク戦争が終わり、子供は学校に通い、大人たちも仕事や買い物に出かけたりと、表面上は普通の生活を送っています。しかし、テロや攻撃にあうのではないかと恐怖心を抱いているのは確かです。直接イラクの一般市民がテロの対象にならなくても、巻き添えになってしまうかもしれないからです。イラクの人々も、そして私たちも、間違ったタイミングで間違った場所にいれば、いつ被害に遭うか分からない。また、治安の問題だけでなく、電気も水もほとんど来ないような厳しい状況です。私たちはその中で、今できることに全力を傾けるべきだと思っています。

――プロジェクトの進展状況は?
ジェンは9月に事務所を開設し、先月、ユニセフ(国連児童基金)と協力してバグダッド市内にある小学校3校の修復事業を開始しました。中断することなく、順調に進んでいます。略奪のあと、放置しておくと危険な電気配線の修理や疫病発生が危ぶまれているトイレの修理、老朽化が進んだ教室や廊下の整備、新しいドアや窓の設置などが行われています。
新学期の授業が始まったため、生徒たちの勉強に支障をきたさないよう作業を進めていきます。

――イラクでの活動をはじめ、ジェンの活動の根底には、どのような精神があるのか改めて教えてください。
ジェンの活動理念は、「人間は一人ひとりに、かけがえのないいのちがあり、等しく固有の価値があるとの信念から、他者を尊重し理解し、互いに支えあう」というものです。
私自身、幼いころから不公平が嫌いだと思っていました。尊いいのちを持った同じ人間なのに、性別や国籍の違い、さまざまな理由で不公平に扱われることが疑問だったのです。しかし、このようなことを言っている私自身、日々の生活の中で、こうした意識が薄れてしまうこともあるのです。だからこそ、一人ひとりのいのちは等しく尊いということを意識しながら活動していきたいと感じています。
私たちの理念からすれば、米軍の兵士たちだって、一人のかけがえのない人間です。普通の若者が突然戦地に送られ、緊張した状況に置かれれば、精神的にまいってしまったり、間違った判断をして誤った攻撃をしてしまったとしても、不思議なことではないと思います。彼らは機械ではなく、人間なんですから。そのような意味からも、やはり戦争は絶対にすべきではないのです。
ジェンの最大の目標は、支援国から一日も早くいなくなることです。もともとは私たちがいなくても、生きていける力のある人たちだということをジェンでは信じています。ただ、不幸な出来事のために、一時的に私たちの支援を必要とする状態になっているということだと理解しています。今は私たちがいた方が、少しだけ人間らしい生活ができるということなのです。一日も早く私たちが必要とされなくなることを願っています。

――立正佼成会の会員にメッセージを。
立正佼成会の皆さんには、イラク募金に多大なご協力を頂きました。本当にありがとうございます。イラク募金だけではなく、日ごろから一食やゆめポッケ、毛布で世界中の支援を必要とする人々を支えてくださっています。その皆さんに特にお願いしたいことは、「忘れないでほしい」ということです。イラク戦争にしても、アフガニスタンの問題にしても、緊急事態の時はマスコミにも報道され、多くの方が意識を持つのですが、半年もすると、マスコミにも扱われなくなり、人々の意識も薄れてしまいます。でも、その募金の届く向こう側には、一人ひとりのかけがえのない人間が一生懸命に暮らしているのです。
戦争が終結したからといって、それは「平和」ではありません。アフガニスタンもイラクも、長い歴史の中でさまざまな問題が生まれ、いまだに解決されないことが山積みです。
旧ユーゴの子供がかつて私に言いました。「平和っていうのは、明日の計画が立てられること」と。明日、食べる物があるかも分からず、もしかしたら攻撃でいのちを落とすかもしれない。そんな状況は「平和」ではない、そう教えてもらいました。平和とは、明日の計画、5年、10年後の計画を立てて生きていけることだと思います。
国際協力に必要なことは、現実を「知ること」「行動すること」「続けること」そして「忘れないこと」です。厳しい状況の人たちに思いを馳せるきっかけがあったのですから、その人たちのことを今後とも忘れないで頂きたい。私たちジェンも、かかわった以上、責任を持ってその国の人たちを支援していくつもりです。これからも厳しい暮らしをする一人ひとりのために、ご支援よろしくお願いいたします。

(2003.11.14記載)