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2006年04月16日 グルジアで「WCRP中央・東欧州青年事前会議」を開催

WCRP(世界宗教者平和会議)国際委員会主催による「WCRP中央・東欧州青年事前会議」が4月16日から18日まで、東ヨーロッパのグルジアで開催されました。会議には東欧諸国を中心とした15カ国から31人の青年宗教者が参加。日本からは松本貢一・WCRP国際青年委員会副委員長(本会青年本部長)がオブザーバーとして出席しました。参加者たちは3日間にわたり、それぞれの地域や宗教が抱える諸問題について議論を行い、解決策を盛り込んだ今後の指針を声明文にまとめ、採択しました。

同会議は、今年8月に開催されるWCRPVIII(第8回世界宗教者平和会議)に先立ち、広島と京都で行われる「WCRP青年世界大会」の事前の取り組みとして位置づけられています。世界大会と同様、『平和のために集う諸宗教~あらゆる暴力を乗り越え、共にすべてのいのちを守るために』のテーマに基づき、中央・東欧州での青年宗教者ネットワークの構築、紛争解決や平和教育など具体的な行動計画の立ち上げ、WCRPVIIIに向けた声明文の採択を目的に行われました。青年事前会議は、これまでにアジア、北南米、日本、アフリカの各地域で実施され、今後、中東や西欧での開催が予定されています。
今会議が行われた中央・東欧州地域は、かつて旧ソビエト連邦のもと共産主義に属していた国々を中心に構成されています。開催地となったグルジアも、旧ソ連崩壊後に独立し、国の民主化が進められてきました。しかし、政府による不正や汚職、少数派民族の弾圧など問題点も残っています。またグルジア正教など強い勢力を持つ宗教と、イスラームなど少数派の宗教との間で確執が続いています。
宗教と人権に関する問題は中央・東欧州の各地域に共通しており、そうした国々の青年宗教者が一堂に会し、平和構築に向けて対話を行うのは歴史的なことと言えます。今後、WCRP国内委員会を設立していくための重要な足がかりともなりました。
16日の開会式では、グルジアの行政機関に属する諸宗教評議会で国民の人権保護に携わるソーザー・スバリ行政監査官が『平和と発展のための諸宗教協力』と題し基調講演を行いました。スバリ監査官は、政治の腐敗や宗教の不平等などグルジアが直面する問題に触れ、「皆さんが宗教宗派を超えて互いの思いを分かち合うことは、必ずグルジアの未来につながると信じています」と、宗教協力に期待を寄せました。
会議では、現代社会に顕在する暴力の形態や原因について討議。少数派の宗教に対する抑圧や民族紛争、人権問題など、各国の現状が報告されました。参加者たちはプログラムを通し、平和構築に向けた宗教者の役割を確認したほか、ネットワーク設立の必要性も話し合いました。最終日には、会議の内容を踏まえ「声明文」の策定、採択が行われました。

特集「WCRP中央・東欧州青年事前会議」

グルジアで行われた「WCRP中央・東欧州青年事前会議」(4月16日~18日)は、今年8月に広島と京都で開催される「WCRP青年世界大会」の事前の取り組みとして実施された。同会議では、世界大会と同様『平和のために集う諸宗教~あらゆる暴力を乗り越え、共にすべてのいのちを守るために』をテーマに、青年宗教者がそれぞれの地域が抱える暴力の原因を探り、具体的な解決策や今後の行動計画を議論した。会議の詳細を項目別に紹介する。

■中央・東欧州地域の問題
中央・東欧州地域で、WCRPによる諸宗教対話が実現したのは今回が初めて。同地域は、長い間続いた国家による宗教弾圧を乗り越え、信教の自由を獲得して以来、さまざまな宗教戦争が繰り広げられてきた。近年では、WSCF(世界学生キリスト教連盟)などの団体が、諸宗教対話活動や文化交流を行うといった宗教協力の動きも見られるようになったが、ヨーロッパではカトリックや正教などが強い勢力を持ち、少数派の宗教に対し不当な差別が行われている。
また、1991年の旧ソ連崩壊後、独立を果たした諸国では、共産主義に代わり民主化が進められてきた。しかし、現実には一般市民にまで民主主義の恩恵が浸透しておらず、地域によっては国家権力による民族や宗教への弾圧も残る。
今会議の開催国であるグルジアでも、国民の7割が信仰するグルジア正教が、イスラームなど少数派に対し非寛容な姿勢を示していることが、諸宗教対話を行う上で大きな障壁となっている。行政機関内に設立された諸宗教評議会は、宗教相互の信頼関係を築くための重要な役割を担っているのだ。
開会式で基調講演を行ったソーザー・スバリ行政監査官は、「グルジアでは、宗教宗派に対し平等という考えが少なく、国民一人ひとりに信仰の自由が与えられていないのが現状と言えます。そういう中で、今回の青年会議がグルジアで開催できていることを大変嬉しく思います」と語った。
宗教宗派間の相克や社会問題を抱えるグルジアを舞台に、参加者たちは、それぞれの地域に根強く残る課題について対話を重ねた。
■パネルディスカッション
会議では、2日間にわたりパネルディスカッションが行われ、『現代社会における暴力の形』『青年宗教者の役割』などをテーマに青年リーダーが発表した。
中でも、中央・東ヨーロッパに根深く残る暴力の形態として多くのパネリストが指摘したのは、少数派の宗教や民族に対する弾圧(非寛容)の問題だ。旧ソ連崩壊後、今なお続くユダヤ人への迫害、また近年強まってきた反イスラーム感情、ロシア政府による少数民族への抑圧など、各国の深刻な現状が報告された。その上で、パネリストたちは自らの組織が取り組む人道支援や平和活動などを紹介し、宗教的寛容の精神を培う平和教育の推進と、諸宗教対話の大切さを訴えた。
パネリストの一人、ダニエル・バートンさん=チェコ共和国・全欧州キリスト教統一運動青年評議会代表=は、宗教の異なる者同士が平和活動を共に進めるためには相互理解を深めることが重要だと話し、「共に行動する中で価値観を分かち合い、よりよい信頼関係を築いていくことで、問題解決への可能性は開かれるはず」と述べた。また、ウクライナのイワンフランコ国立大学のアンドリュー・ユラシ教授は、「諸宗教の間で、儀式や思想の違いといったものを含め、共通理解を図っていくことで互いに尊重し合える社会を築いていけるのではないか」と話した。
■グループセッション
参加者たちは暴力の原因を探るため、パネルディスカッションを踏まえ、3つのグループに分かれて討議を行った。
あるグループでは、「知識の欠如」いわゆる無知が暴力を生み出しているという意見が出された。発言者はさらに「宗教や民族に対する正しい知識がなく、先入観やイメージだけでとらえてしまうことから嫌悪感が生まれ、強い差別意識につながる」と説明し、未来を担う子供たちに平和教育を施していくことが平和へのアプローチの一つになるのではないかと発表した。
また別のグループでは、宗教が本来の目的を忘れているとの指摘がなされ、「宗教とは教義によってしばるだけのものでなく、心の平和という安らぎや癒しを与えるものでなければならない」と訴えた。
2日目には、青年宗教者ネットワーク構築に向けての話し合いが行われた。参加者からは、ロシアを中心に東欧で起きている紛争や闘争を懸念し、「地域によって情勢が違うので協力は難しい」「連絡手段がない」などネットワークづくりに消極的な声も少なくなかったが、問題の早期解決のためにも青年が団結し、宗教を通し広く国内外に「寛容の精神」を伝えていくことが急務であるとの合意がなされた
コーディネーターを務めたジアード・モウサWCRP国際青年委員会事務局長は発表を受け、「皆さんに与えられた『対話』というチャンスをチャレンジに変え、より多くの青年宗教者に対話の機会を提供し、世界平和に向けて歩んでいきましょう」と呼びかけた。
■閉会式
最終日には、「中央・東欧州青年宗教者ネットワーク」の設立構想を盛り込んだ「声明文」が策定、採択された。また、8月に開催される「青年世界大会」に向けて代表の選出が行われ、声明文草案委員の8人が選ばれた。メンバーは今後、青年ネットワークの構築を進めると共に、地域問題の解決に向けて具体的な行動計画を立ち上げていく。
閉会式では受け入れ国を代表し、会議の開催に尽力したグルジアの人権擁護団体「センチュリー21」のパーター・ガチェチラドゼ理事長があいさつに立った。ガチェチラドゼ理事長は、「グルジアでの事前会議を通し、皆さんの間に信頼関係が少しでも築けたことと信じています。8月の大会に向け、それぞれの宗教宗派の代表として、さらに飛躍されますことをお祈り申し上げます」と述べた。また、最後に杉野恭一・WCRP国際委員会事務総長補が、「今後、皆さんには各地域や組織、教団に戻り、ますます力を発揮し、世界平和に貢献して頂くことをお願いしたい。あなた方一人ひとりが、平和な未来を担うリーダーであることを自覚してほしいと思います」と参加者たちに呼びかけた。

ことばファイル

「他宗教の仲間と交流を持つことで、対話の大切さや寛容の精神などたくさんのことを学びました。今後、私が所属する団体の仲間にこの会議での学びを伝えると共に、8月の世界大会に向け、多くの宗教青年に大会への参加を呼びかけていきたい」(イネーセ・セグリナ=ラトビア・ヨーロッパグッドテンプル騎士団員青年同盟)

「ネットワークづくりの必要性を強く感じました。まずは中東ヨーロッパを中心とした組織を立ち上げ、最終的には世界の人々と統合できるようなつながりを作っていきたい」(ジョージ・ダニエル・ネクライ=ルーマニア正教会学生協会)

「会議を通し、教育がいかに大事かということを知りました。宗教の寛大さや相手を認めていくことの大切さを、子供たちに伝えたい。また、これからも仲間と手を取り合い、私の国の現状や難民問題などを多くの人に知ってもらいたいと思いました」(ラリーサ・デマースルタノヴァ=チェチェン青年活動グループ"我々の未来")

「同じ一つの目的を持つ仲間に出会えて、本当にうれしかった。自分だけでなく、さまざまな活動に取り組んでいる青年がたくさんいることを知ったことが一番の学びでした」(コンラド・ペジワイター=ポーランド・アラビア協会)

(2006.05.12記載)