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2006年07月11日 WCRPが西欧州、イスラエル・パレスチナ青年事前会議を開催


西欧州青年事前会議には、諸宗教対話活動に取り組む青年宗教者24人が参加。ヨーロッパでの暴力の現状や世俗化の問題を討議した

WCRP(世界宗教平和会議)国際委員会主催による「WCRP西欧州青年事前会議」(7月11日~13日、スイス・ジュネーブ)、「WCRPイスラエル・パレスチナ青年事前会議」(同14日~16日、エルサレム)が開催されました。両会議では、本会青年本部長の松本貢一・IYC(WCRP国際青年委員会)副委員長があいさつ。参加者による暴力の現状、問題の本質について議論が重ねられ、解決に向けた対話の重要性が確認されました。両会議の様子を紹介します。


左からユダヤ教、カトリック、シーク教、ヒンドゥー教の青年宗教者。互いに理解し、尊敬し合うことの大切さが確認された

【西欧州青年事前会議】
ジュネーブ市郊外のセミナーハウスで行われた会議には、12カ国からカトリック、プロテスタント、イスラーム、ユダヤ教、ヒンドゥー教、シーク教、バハイ教、仏教の各宗教組織の青年代表24人が参加しました。
西ヨーロッパ諸国は、過去にアジアや中東地域などを植民地としていたこともあって、歴史的に多くの移民や難民を受け入れてきました。異なる民族、宗教、文化的背景を持った人々が暮らす中、近年は諸宗教対話の重要性が認識され、国家や地域、各宗教組織をはじめとする市民レベルで数多くの取り組みが行われています。
今会議のテーマは『平和のために集う青年宗教者――あらゆる暴力をのりこえ、共にすべてのいのちを守るために』。参加者はそれぞれの諸宗教対話活動を説明し、ヨーロッパの宗教が抱える問題、暴力の実態などについて意見を交わしました。
この中でWCC(世界教会協議会)のナタリー・マクソンさんは、ヨーロッパ社会で宗教が暴力を生み出す要因と考えられていることについて、「それは単に誤解ではなく、各宗教の中に暴力を肯定するものがあるのかもしれません」と指摘。聖書の『あなたは、兄弟の目にあるおが屑は見えるのに、なぜ自分の目の中の丸太に気づかないのか』という言葉を引用し、宗教が信頼を得るために、まず自らの姿勢を内省することが必要と訴えました。
異なる民族や宗教、文化を持つ人々との共存にも触れ、非寛容や宗教間の対立といった問題に対しては、「各国が過去に植民地を有し、現地の人々を自国に連れてきた歴史を踏まえるべき」と主張。「過去、ヨーロッパのキリスト教徒が何をしてきたか。そこには暴力の歴史があり、反省を踏まえて問題に取り組まねばなりません」と述べました。
一方、ドイツ人でムスリムのハッカン・トスナーさんは、同国で生まれたムスリム青年たちの宗教的アイデンティティの確立をサポートし、国家にどう貢献していくかを話し合っていると説明。他宗教との対話だけでなく、アラブ、ハンガリー、トルコと出身地の違うムスリム間の交流に力を入れていることを報告しました。
「FEMYSO」(ヨーロッパ・ムスリム青年・学生フォーラム)のムハンマド・ラハマンさんは、青年ネットワークや諸宗教対話組織と協力し、積極的に対話に取り組んでいることを紹介。今秋、他宗教と共に「すべての宗教は平等」とPRするキャンペーンを行うと報告し、「対話は互いの宗教が平等であり、同じように尊敬すべきものとの基本に立ってなされなければならない」と語りました。
ヒンドゥー教徒のルジュタ・ルプレイカーさんも、イギリスでの活動の一つに「ヒンドゥー教徒であることが孤立を意味するものではなく、信仰を持ちながら、英国人であることができる」との認識を深める教育を展開していると述べました。
こうした発表を踏まえ、すべての人が政治的、社会的に不利な立場に置かれず、安全を保障されることが重要との意見で一致。多様性を尊重するヨーロッパであるために、より対話を進め、相互理解と尊敬を醸成していくことが確認されました。
このほか、社会の世俗化が進み、宗教離れが進む状況を危惧する発表も多く出されました。その要因の一つに、宗教が紛争や暴力の原因と思われていることに対して、「宗教が政治に利用されてきた歴史の再検討」「宗教が対立や紛争の解決に尽力し、共存の智慧を示していく」「宗教者がより社会に関わり、貢献していく」ことの必要性が提案されました。
最終日には議論を踏まえ、青年宗教者のネットワーク構築を盛り込んだ「宣言文」を採択しました。

【イスラエル・パレスチナ青年事前会議】


ユダヤ教の教義について説明を受ける参加者。イスラーム、キリスト教の説明も行われ、互いの宗教への理解を深めた

イスラエル・パレスチナの対立は、国際情勢の中でもっとも深刻な問題と言われています。IYCではこの問題を重視し、中東青年事前会議とは別にエルサレムでの会議開催を決定。WCRP国際委員会とともに、ICCI(イスラエル諸宗教協議会)、民主主義の普及やパレスチナ青年の育成にあたるNGO(非政府機関)の「パノラマ」が準備を進めてきました。
エルサレムのホテルで行われた会議には、ユダヤ6人、パレスチナ15人の青年が参加。日ごろ、ユダヤとパレスチナの青年が面と向かって意見を交わす機会がないと言われる中で、開会式であいさつに立ったICCI代表のロン・クロニシュ博士は「厳しい状況にある今こそ、互いに出会い、互いの宗教を理解し、紛争について率直に話すことが大事」と呼びかけました。
このあと、『イスラエル・パレスチナにおける状況についての社会心理学的考察』と題したセミナーを開き、ユダヤ人学者のイツハク・メンデルソン氏とパノラマ代表のワリード・サーレム氏が基調発題に立ちました。
メンデルソン氏は、構造的な弱者をつくることは、その被害者意識によって過剰な反応を生み出し、状況を悪化させると説明。また、怒りや悲しみといった紛争の経験を次世代へと積み重ねていくことは被害者意識をエスカレートさせるとし、「紛争当事者の対話では、何世代にもわたり抱えてきたトラウマを互いに話し合うことが重要。しかし、相手も被害者だと気づくためには、自分たちも加害者であると知り、自らが傷つくことを覚悟しなければならない」と述べました。
一方、サーレム氏は、イスラエルの占領政策の問題点を指摘。パレスチナ側も被害者意識と相手への恐れが結び付いて暴力を生み出していると強調しました。そこから抜け出す道として、「自分の被害とともに相手の被害を認識する」「国や地域の安全保障ではなく、人間の安全保障の観点から考える」ことなどをあげ、その実行が紛争和解のプロセスになると訴えました。
夜には、イスラエル軍の武力行使やパレスチナ人による自爆攻撃で家族を失った遺族との会合を実施。非暴力で平和の実現を目指すNGO「平和の闘士」(Combatants For Peace)のメンバーで、ユダヤ人のエリック・エルハナンさん(29)とパレスチナ人のアリ・アブ・アワッドさん(34)が体験を述べた。二人は一度、報復を考えたものの、「報復すれば自分と同じ思いの人が増えるだけで、妹が返ってくるわけでない」(エルハナンさん)、「ユダヤ人にも私たちと同じように泣いている人がいることを知った」(アブアワッドさん)と語り、現在の活動に至った心の変化を説明。悲しみを抱える500の家族が活動に取り組んでいることを紹介しました。
15日には、イスラーム、ユダヤ教、キリスト教の宗教者を招いてディスカッションを行い、教義への理解を深めました。続いて、サーレム氏とヘブライ大学のツビィ・ベケーマン教授を講師に『安全保障の概念』と題するセミナーを実施。この中でベケーマン教授は、イスラエルとパレスチナの対立で犠牲者になっている大多数が双方の貧困層であると指摘し、問題の本質を見ていくよう促しました。
このほか、全員参加によるイスラーム、ユダヤ教、キリスト教の祈りのプログラムが行われ、互いの宗教に対する理解を深めました。


閉会式は調和と平和を願ってつくられた「オリーブの塔」の前で行われた。対立する者同士が出会い、率直に意見を交わすことで友好が生まれた

(2006.08.04記載)