News Archive

2009年03月14日 スペイン語版『法華三部経』発刊記念シンポジウム

スペイン語による『法華三部経』出版を記念し、3月14日、スペイン・マドリードで開催されたシンポジウム「対話する仏教とキリスト教~法華経の紹介」では、同書の出版を機縁に、それぞれの宗教観に基づいた考え方を示し合いながら、諸宗教対話の重要性が確認されました。シンポジウムでの発言とともに現地での反響などを紹介します。

スペイン語版『法華三部経』の発刊事業は、英語、フランス語、ドイツ語、オランダ語訳などと共に、本会が創立40周年記念事業の一環として佼成出版社との協同で進めてきたものです。ホアン・マシア神父が約8年間にわたる翻訳執筆の末にまとめました。スペイン語による法華三部経(妙法蓮華経二十八品、無量義経、仏説観普賢菩薩行法経)の全訳完成は仏教史上、これが初めてです。
発刊・販売を、現地でカトリック系の出版事業を進めるシゲメ社が担いました。シンポジウムはこの出版を記念し、マドリードを中心に諸宗教の出会いと対話活動を続ける民間団体ADIMが諸機関に呼びかけ、カルロス三世大学ニコラス・サルメロン文化センターで開かれました。
開会のあいさつで、シンポジウムに協賛する「多元主義と共存財団」のフェルナンド・アリアス氏は、「スペインではカトリックの影響が強く、その他の宗教者が社会的な疎外感を感じている。これを解決するために、多様性に関する教育が必要だ」と、国内における諸宗教間対話の必要性を述べました。
カルロス三世大学神学・宗教科学部長のホアン・タマヨ・アコスタ教授は基調講演を行い、「立正佼成会に感謝する。今回の翻訳・出版事業、ならびに記念シンポジウムは、スペインにおいて新たな分野を開くものだ」と、スペイン語版『法華三部経』発刊の意味を述べました。
また、カトリック信者が90パーセント以上を占めその影響が社会的に大きいスペイン事情に触れ、「宗教は現代社会に不可欠だ。しかし、必要以上に社会的に保護されるべきではなく、世俗の中での対話が求められる。多様性はその前提であり、諸宗教の出会いは重要だ」と、宗教による平和貢献の道として、民間による宗教間対話の重要性を述べました。
午後から『対話する仏教徒とキリスト教徒』として、マシア神父と鈴木孝太郎・本会国際伝道本部長が壇上へ。二人は、これまで約10年にわたり日本の「練馬宗教者懇話会」を通じ、草の根レベルでの宗教対話を重ねてきたことを紹介、異教徒間の対話は実現可能であり重要であることを伝えました。
マシア神父は、「法華経は仏教の中でも包括的な教えを説く経典。しかし、方便の考え方はカトリック神学者から相対主義だと批判の声もある」として、「方便」の真意を問いかけました。これに対し鈴木本部長は、「宗教は絶対的なもので、本来、相対的な言葉によって表現ができない。真理・法・仏などを指すダルマも言葉では語れない大いなるいのちであり、それを相手に合わせて分かりやすく説くのが方便である」と説明しました。マシア神父は「神学者は言葉を重視するあまり、言葉にとらわれる傾向がある」と補足し、仏教徒とキリスト教徒の対話する場での課題を指摘しました。
また、「仏教はイエスをどうみるか」のマシア神父の問いに鈴木本部長は、「イエスは釈尊と同じ覚者、目覚めた者であると私は受け止める。仏教で言う真理・法、つまり、キリスト教で言う神に目覚めた人であると思う」と答えました。
「仏教の修行は死後も続くのか」の会場からの質問を受け、鈴木本部長は「法華経では死後も修行は続くという立場をとる。庭野会長も〝死ぬまで精進。生まれ変わってまた精進〟を説いている」として、永遠の命を生きる自分たちであることを述べました。
会場の参加者の一人は、「今まで、自分の考えが周囲から理解されず、私の考え方がおかしいのかと思っていた。しかし、今日、お二人の実際の対話を前にして、私の考えは間違っていなかったことをはっきり知った。私がやりたかったこととは、こういう宗教を異なる者同士の真剣な対話である」と興奮気味に話しました。
岡部佼成出版社社長は、「今回の発刊に際し、関係された多くの方々に感謝したい。法華経の中心思想である一乗の教えは、対立を超える上で現代に生きるわれわれに有効。法華経からのメッセージに、スペイン語圏の多くの方々にふれて頂きたい」とあいさつしました。
シンポジウムを終え、鈴木本部長は「スペイン語圏は今、スペインから中南米、合衆国南部の人々へと広がっている。その意味で今回『法華三部経』のスペイン語版が発刊された意味は非常に大きい。今後はこの発刊を機に、人間関係や広報活動を生かし、縁づくりを展開していきたい。具体的にはこれまでに縁をいただいた方々を核にして、法華経による救い、一仏乗の世界の習学を着実に進めていきたい。将来、スペイン人によるスペイン布教が行われるよう計画したい」と語りました。

シンポジウムに先立つ12日午前、鈴木本部長、マシア神父、ADIMのマルガリタ会長は政府系財団である「多元主義と共存財団」での記者会見に臨みました。これに、ヨーロッパ・プレス通信社、インターネット通信のレリヒヨン・デジタル社、ラジオ放送配信のラジオ・ナショナル・エスパニアン社、エル・パイース新聞の各社が参加しました。
「諸宗教対話というのは、本当に西欧社会でありえると思うか。異端的と見られる恐れはないか」「仏教世界の中で、法華経が最大の貢献とするところは何か」などの質問を受けました。これらに対し鈴木本部長は「練馬宗教者懇話会」の活動を挙げ、対話と協力活動が実現可能であることを強調。「法華経は現実の苦からの救いの道を説く実践の教えである。特に、すべての人は仏の悟りを得られる存在であり、すべての人がブッダのようになれば平和が来ることを説く」と答えました。
記者会見の内容はこの日午後、レリヒヨン・デジタルからインターネットを通じ全世界に報道されました。
また、13日午後、同メンバーはスペイン法務省諸宗教関係庁にホセ・マリア・コントラレス長官を表敬訪問し、シンポジウム開催を案内しました。スペイン仏教連盟のルイス・モレンテ・レアル弁護士も同席しました。
この中で鈴木本部長は日本国内での諸宗教対話や協力の事例を紹介、特に本会の活動に触れ、「会員たちは大乗の教え、法華経の精神である菩薩行を日常生活の中で実践することに努めている」と、在家仏教者の心を伝えました。
これに対しコントラレス長官は、2004年のマドリード列車爆破テロ事件の追悼式を諸宗教者合同で行いたかったものの実現できなかったことを述べ、「不法移民により、非カトリック教徒も増えている。社会の安定政策は政府にとって重大。これまでのカトリック的な価値観とのバランスの取り方は大きな課題となっている」と、多様性が求められる国内事情の中で、諸宗教間対話への期待が大きいことを話しました。

(2009.4.10記載)