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2009年07月10日 「青年宗教者による共有される安全保障のための国際軍縮サミット」開催

「青年宗教者による共有される安全保障のための国際軍縮サミット」(主催・WCRP=世界宗教者平和会議=国際委員会、同ネパール委員会)が7月10、11の両日、ネパール・カトマンズ市内のホテルで開催され、IYC(同国際青年委員会)委員を含む25カ国50人の青年宗教指導者らが参加しました。同国際委員会から杉野恭一同事務次長ら4人が、ネパール国内からは諸宗教指導者、識者、国連・NGO(非政府機関)関係者ら約100人が出席。立正佼成会から、同事務総長青年担当特別アドバイザーの松本貢一青年本部長をはじめ同日本委員会青年部会の幹事、正会員ら5人が参加しました。 

各国の軍事費が年々増大する一方で、サハラ以南のアフリカなど多くの国では人々が極度の貧困、飢餓に苦しんでいます。こうした状況を受け、IYCは昨年末に開催した「第3回会議」(ケニア・ナイロビ)で、軍事費を削減し、開発政策に充てることなどを国際社会に呼びかける「グローバル・キャンペーン」の実施を決定。同サミットは、核兵器や通常兵器に関する世界の現状を確認するとともに、IYCを中心とした国際的な諸宗教青年ネットワークの特性を活(い)かし、真の「共有される安全保障」に向けたキャンペーンの具体的なあり方などを模索する目的で行われました。
開会式では、ネパールのラム・バラン・ヤダブ大統領があいさつに立ち、青年の取り組みに期待を寄せました。
このあと参加者は、2日間にわたり、セッションや分科会を実施。核兵器や軍縮の世界の現状について認識を深めるとともに、武力によらない国際関係の実現に向けた青年宗教者の役割について議論を重ねました。またインターネットを通じ、広島の被爆者や核廃絶に向けて国際的な活動を展開するWCRPのパートナー団体と意見交換を行い、今後の協働を約束しました。
閉会式では、満場一致で世界の青年宗教者による共通行動を盛り込んだ「カトマンズ宣言」を採択。「グローバル・キャンペーン」として「核兵器の廃絶」「軍事費削減と開発の促進」「通常兵器の廃絶」について、教育や啓発を通じて世論を喚起するとともに、為政者に対してもアドボカシー(政策提言)を行っていくことなどを決議しました。

サミット開催の趣旨には、宗教者として、武装による国家の安全保障ではなく、相互の信頼による真の安全保障の促進を求めることが掲げられました。参加したのは25カ国50人の青年宗教指導者たちです。被爆国である日本、核保有国、また現在紛争や対立の最中にあり、地雷やクラスター爆弾、小型銃など通常兵器の脅威にさらされている国からも多くの青年が集いました。
このほかサミットには、ネパール国内の諸宗教指導者、識者らをはじめ核兵器廃絶や軍縮について青年宗教者との連帯、協働を求める団体・機関からも多数参加がありました。前国連ユニセフ事務局次長のクル・C・ゴーダム氏は開会式で講演に立ち、青年宗教者の取り組みに期待を寄せるとともに、2015年をゴールとした国連ミレニアム開発目標(MDGs)の完遂に向け、協力を要請。国連アジア太平洋平和軍縮センターの木村泰次郎所長やネパール地雷廃絶キャンペーン(NCBL)でコーディネーターを務めるプルナ・ショバ・チットラカール氏らも参加し、スピーチを述べました。
加えて、インターネットを通じて、WCRPのパートナー団体であるNGO(非政府機関)「国際平和ビューロー(IPB)」(本部=スイス・ジュネーブ、1910年にノーベル平和賞を受賞)のヤシュア・モーザー・プワングスワン氏、「平和市長会議」(本部=広島、核兵器廃絶に賛同する世界の都市で構成)の事務局長で広島平和文化センター理事長も務めるスティーブン・リーパー氏が出席。ゲストスピーカーたちは一様に来年5月、国連で開催される「NPT(核不拡散条約)再検討会議」などに触れ、「核がなくなるか、核が広がるか。人類はいま、重要な局面を迎えている」(リーパー氏)ことを強調しました。
また、リーパー氏とともに被爆者も参加。自らの体験を語ったあと、先ごろオバマ米大統領が「核のない世界を目指す」と発言したことに触れ、「オバマ大統領一人で核をなくせるとは私は思わない。地球上のすべての人が核廃絶に向かって何らかのメッセージ、行動を表すことが必要。皆さんの子供や孫、地球上のすべての人が安心して暮らせる平和な世界をつくろうではありませんか」と訴えました。
参加者たちはこうしたゲストスピーカーとの意見交換のほか、『軍縮に対する青年の役割』『暴力・戦争における宗教の誤用』をテーマにした全体討論、また『核兵器』『通常兵器』『暴力・戦争における宗教の誤用』『国連ミレニアム開発目標促進のための軍事費削減』の4テーマに分かれての分科会を実施しました。
閉会式では、2日間の体験や議論を踏まえ、満場一致で『カトマンズ宣言』を採択。このあと杉野恭一WCRP国際委員会事務次長がサミットを総括、同事務総長青年担当特別アドバイザーの松本貢一本会青年本部長があいさつを述べました。最後にステラマリス・ムラーIYC(WCRP国際青年委員会)委員長が登壇し、参加者に謝辞を述べるとともに、『カトマンズ宣言』の具現に向け、さらなる協働を呼びかけました。

開会式あいさつ要旨 ラム・バラン・ヤダブ大統領
25カ国から集った青年宗教指導者、そして諸宗教指導者の皆さま、ネパールで軍縮会議が開催されることを心より歓迎いたします。
人類の歴史を振り返ってみますと、科学技術や経済は今日までに目覚ましい発展を遂げてまいりました。また過去のどのときよりも、世界は一つになっていると言えるでしょう。しかし同時に、すべての国において「人間の安全保障」がこれほど求められている時代はありません。
いま、世界の多くの国で子供や青年のいのちがさまざまな暴力に脅かされています。私たちの国・ネパールも表面的には平和に見えるかもしれませんが、人々は社会正義や政治的自由、経済発展を求めています。私はすべての宗教が非暴力を訴え、人々の慈悲心を喚起することを希望します。特に青年宗教者の皆さんに対して、人々の善意の触発、そしてすべての人間の安全保障に向けた活発な取り組みを期待しています。
ネパールはゴータマ・ブッダの生まれた国です。言うまでもなく、ブッダは平和の王子、平和の使者であります。世界はいま、真の平和実現に向けた具体的なプロセスを必要としています。ここから発せられる平和のメッセージが、世界中のすべての国に早急に届けられることを私は願っています。
この会議がネパールの青年を勇気づけるとともに、世界の平和実現、共有される安全保障を促進するためのものとなることを祈ります。

閉会あいさつ(要旨) WCRP国際委事務総長青年担当特別アドバイザー 松本貢一
私たち宗教者が日々目指しているのは、神仏を敬い、その教えに基づく実践を通して、すべての人や物事を心から信じることのできる大安心(あんじん)の世界、つまり、「すべてのいのちの尊厳が守られる世界」を築くことであると思います。
しかし、現代社会を見渡しますと、不信による不安が渦巻いております。今回のテーマである武装や軍備というものは、まさにその不信がもたらすものだと言えるでしょう。「他を信用できないから武装する」「武装している相手は信用できない」といった国家間における不信の連鎖が、際限のない軍備の拡大につながっているのです。
「いのちの尊厳」を踏みにじり、人を傷つけ、殺すための道具でしかない軍備のために、いったいどれだけの費用が使われているのでしょう。そうした意味では、この世界の現状--「信」ではなく「不信」が渦巻いている現代社会は、宗教者が宗教者としての真の役割を果たしていない、私たちのサンゲとも言えると思うのです。私は今回の会議を通してその自覚に立ち、『軍縮と開発』というテーマに自分の問題としてチャレンジしていかなければいけないと覚悟を新たにいたしました。
私たち一人ひとりは微力かもしれません。しかし、私たちにはそれぞれの宗教、信仰を通じた仲間、そしてWCRPという世界最大の諸宗教ネットワークがあります。そのネットワークにつながるすべての人の力を結集したならば、成し遂げられないことはないと確信しています。
私はWCRPにつながる青年宗教者が心を一つにして取り組んでいくならば、必ず成し遂げることができると信じています。諸宗教青年指導者の叡智(えいち)と努力によって、必ずや「すべてのいのちの尊厳が守られる世界」を築けますよう、皆さまとチャレンジを続けてまいりたいと思います。

共有される安全保障のための軍縮 カトマンズ宣言(仮訳・抜粋)
ネパール・カトマンズ 2009年7月11日

我々、世界の諸宗教の青年リーダーは、ここカトマンズに集った。互いに学び、話に耳を傾け、討議をするためだけでなく、行動するために、「青年宗教者による共有される安全保障のための国際軍縮サミット」を開催した。我々は、グローバル・キャンペーンをスタートさせることを決め、それぞれ帰国の途に就く。キャンペーンには、二つの柱がある。一つは、各国政府に、軍事と武器にかかる費用を削減させ、開発に振り向けるよう要請すること。もう1つは、核兵器廃絶のためのアドボカシー(政策提言)を行うことである。
我々がネパールに集ったというのは重要なことである。ヤダブ大統領が開会式で話したように、ネパールは平和の王子として知られるブッダの生誕の地であり、諸宗教を調和させた長い歴史を持つ国ではあるが、同時に今、武器を用いた暴力に直面している。この暴力は、生命を脅かし、安全と平和に向かうために必要な社会的安定をコミュニティーから剥奪している。このような中で、我々は緊急のプライオリティー(優先課題)である軍縮活動の必要性をさらに強く認識した。
我々青年は、武力紛争における無辜の犠牲者と兵士に思いを寄せるものである。我々は新しいミレニアム(千年紀)に生きている。このミレニアムは、新しい平和の時代を、我々すべてが自由で恐怖のない地球村に参加しているという約束をもたらしてくれるはずであったが、最初の何年かは、新しい戦争、軍事費の増加、銃による暴力の増加、恐怖や不信の増長という事実に直面している。NPT(核不拡散条約)は、我々が生まれる前に合意された。しかし、我々が大人になってもなお、核兵器は依然として存在し、さらなる脅威を増しているのである。
我々は、軍縮のすべての問題に共通していることは、政府が開発や平和構築ではなく武器にお金を費やしていることだと考える。平和構築の重要な要素として、軍備の生産や流通の制限が必要だ。2008年の全世界の軍事費は、過去最高の1兆4640億㌦であり、これは国連ミレニアム開発目標(MDGs)を達成するために1年間に必要な費用の10倍である。世界経済が低迷し、世界人口の大多数が極度の貧困下で暮らしているにもかかわらずの数字である。
軍事費は通常、安全保障のための選択であると説明される。しかし、我々は、兵器の費用は、真の共有される安全保障と対峙するものであると世界の指導者に訴えたい。我々の政府が兵器の開発のために費用を使い、教育に使用しない時、将来の安全を保障する可能性からは離れていくことになる。新しい銃を購入するために費用を使い、地雷除去のために使用しない時、政府は不必要な死を招くことに貢献していることになる。政府が巨大な軍事産業の維持のために費用を使い、国家債務の返済に使用しない時、世界は安定と安全からさらに離れることになる。我々はこの不均衡を是正し、あらゆる種類の武器の費用を持続的な平和をもたらすための開発に振り向けるよう、指導者の意識を転換していく必要がある。
世界の宗教コミュニティーは、この変革に向けたアドボカシーに、非常に重要な役割を果たすことができる。それぞれの宗教は、精神的な伝統や道徳的な価値、そして最も歴史のある大きな社会ネットワークを有している。それぞれの宗教コミュニティーに積極的な声があるように、我々は、これらのネットワークを活用し、軍縮活動のために働くという宗教伝統の中に、生命や人間尊厳の共有される価値を描くことができる。
我々の世界は、核兵器の拡散、クラスター爆弾や地雷、その他の通常兵器の継続的な使用と向き合っている。これらはすべて、脅威の様相を呈しているが、我々は軍事費の継続的な増加、それに関連して顧みられないでいる開発、そして暴力と戦争に宗教が悪用されることに挑戦する。我々は、政府の指導者に、すべてのレベルで軍事費を削減し、核兵器や通常兵器の脅威を取り除くことに取り組み、コミュニティーの安全構築のために資源を使うことを呼びかける。指導者は、これ以上、武器を持たず、武器を開発しないで、脅威に対応できる安全な方法を開発しなければならない。我々は、また、ネパールならびに世界の青年に、平和のための我々の活動に参画するよう求める。
我々の行動は、教育とアドボカシーである。地方において、我々は、軍事費とすべての武器がどのような脅威を持っているかについて、コミュニティーで啓発活動を行う。これらのコミュニティーの声を地球社会に反映しながら、我々はWCRP国際ネットワークや平和市長会議、国際平和ビューローが行っている国家レベル、国際レベルの政策決定者に対するアドボカシーに参画する。そして、我々は、米国のオバマ大統領が最近提唱した2010年3月の地球核兵器サミット、2010年5月に国連で開催されるNPT再検討会議、2015年に最終年を迎える国連ミレニアム開発目標(MDGs)を、我々の行動の重要な局面として位置づけるものである。
我々一人ひとりは、このサミットに刺激を受け、ローカルレベルからグローバルレベルまでの具体的な行動に踏み出すために、ネパールから出発する。すでに、ここネパールから、サミットでの重要な動きが始まっている。増長する暴力の文化から、ネパールの平和の文化への復興が、青年とともに開始された。我々は、ネパールの兄弟姉妹の活動を支援する。我々は共に、世界の優先順位を、武器から開発、安全、平和のための真の資源に転換していく。

(2009.7.24記載)