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2010年07月23日 「改正臓器移植法」全面施行に強い危機感

平成21年夏に国会で可決された「改正臓器移植法」が7月17日に全面施行されました。その内容は「脳死を一律に死」とし、本人の提供意思が不明の場合でも、家族の同意のみで年齢に関係なく臓器移植を可能とするもの。臓器提供を増やすことを目的に法改正されました。今後は、この内容に沿って運用されますが、社会に与える影響の大きさを懸念する声は絶えません。脳死・臓器移植に関する立正佼成会のこれまでの見解を基に、改正法の持つ課題を紹介します。

脳死による臓器移植は、臓器提供者の死を前提に行われる特殊な医療行為。このため、臓器移植の立法化に際しては、「脳死は人の死とされるのか、否か」について多くの議論がなされてきました。
国民的議論、度重なる法案修正を経て1997年に成立した臓器移植法では、人間の死は従来通り、三徴候(心臓の鼓動と呼吸が停止し、瞳孔が開く)によって判断されるものであり、移植の場合に限り脳死を人の死と認め、本人の提供意思の表示と遺族の同意を条件に臓器移植を行うとしました。「移植に限り、脳死は人の死」「提供者本人の意思の尊重」は以後、基本理念とされました。
しかし、昨年7月に可決された改正法では脳死を一律に人の死とし、本人の臓器提供の意思が不明な場合でも、家族の同意だけで臓器提供を可能としました。加えて提供の年齢条件を撤廃。蘇生(そせい)力に富み、脳死判定が難しいために対象外とされてきた6歳未満の脳死判定、臓器提供も行えるとしました。
脳死状態でも、心臓は動き、血液は循環し、肌にぬくもりがあるなど、脳死を死と考えない人は少なくありません。近年は脳死状態のまま数カ月から数年生存する「長期脳死児」の存在が数多く報告されています。国民的合意を得ずに、わずかな審議時間で死の概念や基本理念を覆した国会の判断に対し、宗教界をはじめ各方面から危惧(きぐ)の念が表明されました。
立正佼成会も渡邊恭位理事長名による緊急声明を発表し、拙速な法改定を「国の将来に重大な禍根を残すもの」と指摘。「改正法は『臓器不足』の解消を第一義とし、人間の臓器の『産業資源』化を意図するもの」として、「いのちの尊厳」にかかわる死生観、倫理観、価値観の変容につながると強い危機感を表しました。
臓器移植に関し、本会は91年に中央学術研究所に生命倫理問題研究会を設置。同年に政府の「臨時脳死及び臓器移植調査会」に意見書を提出しました。94年、『「臓器の移植に関する法律案」に対する見解書』を国会議員に送付。2005年には、与野党の代表に『臓器移植法改正案に対する提言』を提出しました。臓器移植を「緊急避難的な過渡期の医療」とした上で、すべてのいのちの尊厳を守る立場から、脳死を一律に人の死としないこと、提供者本人の意思の尊重を一貫して要望してきました。

(2010.7.23記載)