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2010年09月17日 比ミンダナオ島でユニセフ・WCRPが連携事業

全国各教会で実施されているユニセフ(国連児童基金)支援を目的とした街頭募金やチャリティーバザーなどで市民から寄せられた浄財(「一食(いちじき)ユニセフ募金」)は、今年度から「宗教者による紛争下・後の子ども保護」事業に充てられます。同事業は、ユニセフがWCRP(世界宗教者平和会議)と合同で進めるもので、「子ども保護」について多様なノウハウと経験を持つユニセフが、地域コミュニティーに多大な影響を与えている宗教者と協働し、子どもたちのいのちや健やかに成長する権利を守ろうというものです。また同事業には、諸民族、諸宗教間の紛争下・後の現場において、WCRPの特色である諸宗教の対話・協力を基に和平、永続的な平和構築への貢献も期待されています。スタートして間もないフィリピン・ミンダナオ島での取り組みを報告します。

ミンダナオ島では1960年代以降、土地の自治権をめぐりフィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)との間で武力闘争が続き、現在も緊張状態にあります。これまでに多くの国内避難民が生まれており、多くの一般市民が厳しい生活を強いられています。こうした状況下において、最も大きな被害を受けているのは、やはり子どもたちです。食糧不足、教育機会のはく奪などに加え、心的外傷や心理的ストレスに苦しんでいることが重要な問題となっています。
「宗教者による紛争下・後の子ども保護」事業では、こうした子どもたちへの社会心理的ケアに取り組むことになっています。同島は多様な民族が暮らしており、紛争の影響で傷ついている子どもたちは複数の先住民族、ムスリム、キリスト教徒とその背景はさまざま。現在、宗教指導者が主導し、一律でない、それぞれの子どもたちの伝統的な価値観や文化に基づく心のケアのためのプログラム開発が急ピッチで進められています。プログラム完成後は、ユニセフとともに島内の諸宗教者が、先住民族、ムスリム、キリスト教徒それぞれが身を寄せ合って生活する難民キャンプやコミュニティーなどを訪れ、実施することになっています。この点が同事業の大きな特徴の一つです。
WCRP国際委員会の杉野恭一事務次長は、「さまざまな宗教者が他の宗教や人々に根付いた伝統的な文化、価値観を理解し、各コミュニティーで協働する。これによって宗教者間の対話が促進されることはもちろん、子どもだけでなく、大人たちにも良い影響を与えることができます。すでに各所で活動している単一の宗教を基盤としたNGO(非政府機関)同士の橋渡しもできるはずです」と期待を寄せます。

MILF本部を訪問し重要性訴える

併せて、同事業は直接的なミンダナオ紛争の和平交渉の仲介にも乗り出しました。8月中旬、WCRPフィリピン委員会の人脈を基に、杉野事務次長をはじめ同委員会のルーデス・マストゥーラ委員長、ユニセフ・フィリピン委員会と日本ユニセフ協会のスタッフらが紛争当事者であるMILFの本部を訪問。同組織のトップであるムラド・エブラヒム議長、マハゲール・イクバル和平交渉団長と懇談し、「子ども保護」の重要性を訴えるとともに、和平促進へ協力する意向を伝えました。また、同様の目的でフィリピン政府の和平交渉担当者らとも面会し、同島の紛争解決に向けて議論を行い、継続したコミュニケーションを約束しました。
子どもたちの心理的ケアに主眼を置いた同事業の成果は、簡単に数字に表れるものではないでしょう。しかし、子どもが十分に守られる社会は、大人にとっても望ましいものであることは言うまでもなく、それを目指し、継続した取り組みを行うことが重要です。ユニセフとWCRP両機関の特徴や経験を生かした直接的、間接的な「子ども保護」へのさまざまなアプローチに期待します。

(2010.9.17記載)