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2014年03月10日 立正佼成会 集団的自衛権の行使容認に対する見解発表

立正佼成会は3月10日、「日本国憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認に対する見解」を発表しました。同日、川端健之理事長が東京・千代田区の首相官邸を訪れ、安倍晋三首相に宛てた見解書を菅義偉官房長官に手渡しました。見解書では、政府が進める集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更に対し、憲法の「平和主義」や立憲主義の遵守(じゅんしゅ)を踏まえた本会の姿勢、仏教に基づいた平和推進の観点が示されています。

昨年、安倍首相の私的諮問機関である「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」が再開され、来月には安保法制懇による報告書がまとめられるなど、政府は集団的自衛権の行使容認に向けた動きを活発化させています。本会は外務部や中央学術研究所などの関連部署を中心に状況を把握し、その課題点などを精査しながら検討を進めてきました。
今回の見解書では、これまで制限されてきた自衛隊の活動が、他国での紛争や戦争にまで拡大する恐れがあることに強い懸念を表明。専守防衛の枠を超えて武力を行使せざるを得ない事態に発展する危険性を指摘しています。また、憲法の「改正」には国民投票が義務づけられているにもかかわらず、政府の判断だけで"解釈改憲"に至るプロセスに疑問を提示。憲法第九条に示される「平和主義」の理念に則し、立憲国家として世界の安寧に貢献するよう政府に要請しています。さらに、本会として、仏教が説く不殺生・非暴力の精神を基に、対話などによる平和に向けた取り組みを継続していく意向も表明しています。首相官邸を訪れた川端理事長は、菅官房長官に見解書を手渡し、趣旨を説明。大局的な視野で十分に議論を尽くし、慎重に判断するよう求めました。
このあと、自由民主党本部で石破茂幹事長に、民主党本部では海江田万里代表に面会し、それぞれ見解書を手渡しました。

◆日本国憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認に対する見解 全文

近年、「憲法改正」論議が高まりを見せる中で、立正佼成会(以下、本会)は、平成17年12月1日に「憲法改正に対する基本姿勢」、平成24年11月11日に「『憲法改正』に対する見解~憲法の『平和主義』を人類の宝に~」を通して本会の見解を表明しました。

その後の急激な情勢変化の中で、現政府は憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認に向けた歩みを進めています。しかし、ひとたび集団的自衛権の行使が認められれば、専守防衛を責務としてきた自衛隊が地域紛争や国家間の戦争などに直接関与し、武力を行使せざるを得ない危険性が生じます。本会は、こうした事態に対して深く憂慮し、ここに改めて見解を表明するものであります。

日本国憲法を「改正」するためには、その第九十六条に定められているとおり、最終的に国民に判断を委ねる国民投票が必要条件とされています。もちろん、憲法の解釈は日々発展すべきものであり、変更も否定されるべきではありません。しかしながら、憲法の基本原則たる「平和主義」のあり方については、政府自身による解釈が長年にわたり維持され、かつ、それが国民や国際社会に広く受け入れられてきました。このような憲法の基本原則について、政府の解釈変更によって集団的自衛権の行使を容認しようとすることは、国民の意思確認を軽視する非民主的政治プロセスであり、近代国家の大原則である立憲主義を否定するものであります。

平成11(1999)年5月、オランダ・ハーグで世界から一万人の市民、国連事務総長、各国政府代表が参加して開催された「ハーグ平和アピール世界市民平和会議」において、「公正な世界秩序のための基本十原則」が発表されました。その第一項には、「各国議会は、日本国憲法第九条のような、政府が戦争することを禁止する決議を採択すべきである」と明定されています。こうした世界の声こそが人類の願いであり、戦後六十有余年にわたり憲法の「平和主義」を堅持し、世界の平和に貢献してきた日本の誇りであります。
憲法前文は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と謳っています。立憲国家たる日本の舵取りを担う現政府は、日本国憲法第九条の理念を深く認識し、非暴力による平和の実現に向け、最大限の努力をするよう強く要望します。

本会は、不殺生・非暴力の精神に基づく仏教教団として、これまで国内外の宗教・政治・経済・文化などの指導者ならびに草の根レベルでの市民との対話・協力を推進し、平和のために努力を重ねて参りました。これからも国や民族、宗教や文化の相違、そしてまた異なる立場を乗り超え、他者と共に生きる平和世界の実現に向けて取り組むことを誓うものです。
以 上

平成26年3月10日
立正佼成会

◆会員の皆さまへ 立正佼成会理事長 川端 健之

現在、国際的な状況にはさまざまな緊張関係があり、課題があります。日本を取り巻く環境も例外ではありません。国際関係から生ずる問題を解決するための手段の選択は非常に難しく、熟慮し、合意を重ねることが求められます。
そのような現今の背景の中で、政府は、憲法の解釈変更による集団的自衛権の行使容認へと踏み出そうとしています。しかしながら、この方向性を、私たちは宗教者、仏教者として看過することができません。このたびの憲法解釈を変更するプロセスに問題があることは、憲法学者はじめ多くの方々の指摘されているところでもあります。そして、私たちは集団的自衛権の行使容認が、第二次大戦後これまで、わが国が憲法の「平和主義」のもとで堅持してきた「国際紛争の解決に武力を行使しない」という方向性に逆行して、専守防衛の枠を超えて武力行使に発展する可能性を開くことに大きな憂慮を抱くのです。
これまでも本会は、「憲法の『平和主義』を人類の宝に」と訴え続けてきました。それは、すべてのいのちを等しく尊重する法華経の一乗精神と相通じる考えがそこにあるからです。日本が戦後、今日まで平和の道を歩み続けて来られたことに、憲法が果たした役割は甚大です。今回の問題は、憲法の平和主義の行方に大きくかかわるものと認識されなければなりません。
私たちは、「一食(いちじき)を捧げる運動」「アフリカへ毛布をおくる運動」など平和活動に携わる中で、諸外国の紛争の現実を学んできました。戦争が悲しみ以外の何物も生み出さないこと、女性や子供をはじめ多くの無辜(むこ)の市民が犠牲となることを学び、この世から武力紛争をなくしたいと願い、活動に取り組ませて頂いております。
そのお手本とさせて頂いているのは、やはり開祖さまのお姿です。「国連軍縮特別総会(SSD)」で3度にわたって演説され、開祖さまは、この世から戦争、武力、核兵器、武器など、いのちを脅かすあらゆるものをなくしたいと、本気で願い、ご生涯をかけて行動されました。私たちは、仏教者として、開祖さまのみ弟子として、武力のない世界を理想とし、そこを目指して祈りを深め、行動してまいりたい、そのように願うのです。
国際関係は複雑であり、それぞれの分野で、どのようなアプローチができるかを模索していくことも大切です。国際化の進む日本国内で取り組めることも少なくありません。私たちは今後とも、宗教者としてのネットワークやチャンネルを生かして、各国の同志と連携するとともに、民間・市民レベルでの友好を築き上げて行く努力をしてまいりたいと願っております。会員の皆さまのご理解とご協力を、心よりお願い申し上げる次第です。

(2014.3.14記載)