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2015年04月09日 平和のための共通ヴィジョン構築へ 「ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム」 WCRP日本委、世界イスラーム連盟共催 庭野会長とアルトルキー事務総長が基調発題


開会セッションで基調発題に立った庭野会長は、まず自分の心の中から敵意や憎しみを取り去るのが本来の宗教的な態度であると述べ、仏教の智慧(ちえ)から、宗教者の姿を示しました

『ムスリムと日本の宗教者との対話――平和のための共通ヴィジョンを求めて』を総合テーマに、WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会と世界イスラーム連盟(MWL、本部=サウジアラビア・マッカ)の共催による「ムスリムと日本の宗教者との対話プログラム」が4月9、10の両日、東京・港区のグランドハイアット東京で開催されました。MWLのメンバーと同委員会に加盟するイスラーム、キリスト教、仏教、神道などの宗教指導者、学者ら約300人が参加。立正佼成会から庭野日鑛会長(同委員会会長)、庭野光祥次代会長(同理事)、川端健之理事長(同理事)が出席しました。期間中、総合テーマを基に基調発題、セッションなどが行われ、最終日に共同声明文が採択されました。

世界イスラーム連盟(MWL)は、1962年に創立されたイスラームの国際組織。マッカに本部を置き、世界に40以上の支部を有します。国連経済社会理事会に属しており、協力、共生、対話の精神に基づいて人類の福祉に貢献する活動を展開しています。2008年にスペイン・マドリードで、11年には台湾で「国際諸宗教対話会議」を開催し、本会から庭野会長が出席。宗教協力、平和構築のパートナーとして相互の協力関係を深めてきました。
9日、開会セッションでは、岸田文雄外務大臣のメッセージが披露されたあと、庭野会長、アブドッラー・ビン・アブドルムハセン・アルトルキーMWL事務総長が基調発題。庭野会長は、MWLとWCRP日本委のこれまでの協力関係に触れながら、まず自分から相手に対する敵意や憎しみを取り去っていくことが本来の宗教的態度であると説きました。また、アルトルキーMWL事務総長は、世界の争いの原因は、寛容さや公正なあり方を呼びかける宗教の衰退であることを強調しました。

『宗教と平和』をテーマにしたセッションIでは、昨今、世界で多発するイスラーム過激派組織による暴力、テロに対する見解や、その中で宗教者のあるべき姿勢などについて議論されました。
この中で発題したWCRP日本委の杉谷義純理事長(天台宗宗機顧問)は、中東などで起こる民族・宗教間の紛争に言及。武力による問題解決の手法がさらに問題を拡散し、複雑にしているとの見方を示し、異質なものに敬意を払う姿勢こそが、他者との共存の道であると強調しました。
また、仏教の三毒(貪(とん)・瞋(じん)・痴(ち))の教えを紹介。人間は自己中心的になりがちな生き物であり、相手と同じ目線に立ち、寄り添うには、仏教徒の行である「四摂法(ししょうぼう)」(「布施」「愛語」「利行」「同事」)の実践が肝要であると説きました。
このあと開かれたセッションII『宗教の違いと憎しみの文化』では、異なるものに対する人間の憎悪が生み出した宗教・民族間の紛争の歴史などが語られ、学びを深めました。

翌10日、『宗教の価値と共通の課題』をテーマに行われたセッションIIIでは、駐日サウジアラビア大使館文化部長のイサム・アマーナッラー・ブカーリ氏が発題。イスラームの聖典「クルアーン」の一節を引用し、神は互いをよく知るために人間を種族や部族に分けたと説明し、相互理解の必然性を示しました。
また、飢餓や貧困、環境問題など、人類が抱える諸問題に取り組むことが宗教の役目であるとした上で、その共通の目的に向けた諸宗教間の協働は対話によって実現されるべきであると述べました。
このあと参加者は、同区内のアラブ・イスラーム学院を訪れ、施設やイスラームの礼拝を見学。続くセッションIV『今後の計画』で、過激・快楽主義中心の現代社会の中で、宗教が担う道徳的教育や人材育成のあり方などが論じられました。
閉会セッションでは、日本ムスリム協会の徳増公明会長によって共同声明文が発表され、採択されました。声明文では、宗教は世界平和、公正の実現を目指すものであり、私益のための紛争、テロリズムの原因であってはならないことや、宗教や文明、人種、文化の相違を対話によって理解し合い、人類の幸福に向け、宗教者間で協働する重要性などが強調されました。

基調発題要旨
世界イスラーム連盟事務総長 アブドッラー・ビン・アブドルムハセン・アルトルキー
共有する価値観を活用し諸宗教・文明間の対話を

世界の争いの原因は、宗教ではありません。宗教は、ときに手段として利用されますが、寛容を、公正なあり方を呼びかけるものです。世界の戦争のほとんどは、宗教の衰えが原因です。問題は、物欲、植民地主義的利益の増長、利己的な政策にあります。
イスラームの聖地マッカで開催された『イスラームとテロとの戦い』と題する国際会議では、世界中で繰り返されるテロ行為は宗教や文明と連携したものではなく、テロリストが属する宗教を代弁することはないと確認されました。イスラームは犯罪行為とは関係なく、テロ組織を強く非難します。国際社会による弱者の救済が進んでいないことも、テロの一因と言えるでしょう。
イスラームを脅威と見なす文化を広め、テロと結びつけることでは対抗できません。それは、イスラームの共同体、文明を攻撃することになり、テロリストを取り締まる15億人以上のムスリムに対する不正となります。
過激と闘争を好む人間に対しては、諸宗教・文明間の対話が一番の方策です。相互理解と共生を推進し、世界の紛争を減少させねばなりません。それが世界の平和と安寧を確保するのです。
倫理道徳上の問題として、グローバリズムは無宗教、無政府主義、腐敗をもたらしました。それらは人間の価値を傷つけ、道徳水準を下げ、社会を分断し、争いをさらに招くことになります。
私たちは、共有する価値観を活用し、これらに立ち向かうべきです。世界は小さな村となり、諸問題の解決に取り組むために、意見を近づけることができるでしょう。そのようなアプローチが、最善の対処法なのです。

(2015年4月24日記載)