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2015年05月14日 「第32回庭野平和賞」贈呈式 名誉会長挨拶

本日は、「第32回庭野平和賞」の贈呈式にあたり、文部科学事務次官・山中伸一様、駐日ナイジェリア連邦共和国大使館公使・エセシエン・ンテキム様、日本宗教連盟理事長・保積秀胤様をはじめ、多くのご来賓のご臨席を賜り、あつく御礼申し上げます。
今年度の庭野平和賞を、ナイジェリアのキリスト教ペンテコステ派の牧師であり、「障壁なき女性たちのイニシアチブ」の会長であるエスター・アビミク・イバンガ師にお贈りできますことは、大変光栄なことでございます。
私は、イバンガ師が会長を務められている「障壁なき女性たちのイニシアチブ」――その組織の名称そのものが、大変素晴らしいと思っております。世界には、国、民族、宗教、歴史、文化、言語などの相違があり、それが「障壁」となって摩擦を起こすケースが少なくありません。
しかし、イバンガ師は、互いの相違について、次のように語っておられます。「神は、私たちが次元の異なるさまざまな智慧を発揮できるように、一人ひとりに『違い』を与えてくれたのであり、それは神の恩寵のあらわれです」と。
こうした宗教性を根底に置きつつ、女性の特性、母親としての慈愛の精神を、確実に平和構築のプロセスに反映させたいという願いが、この「障壁なき女性たちのイニシアチブ」という名称に見事に象徴されていると思うのであります。
先ほどもご報告がありましたように、ナイジェリアでは、宗教の違いによる住民間の対立から、悲惨な争いが繰り返されてきました。また過激派組織「ボコ・ハラム」による女性や子供の大量誘拐などが、深刻な社会問題となっています。住民の間には、恐怖、憎しみ、激しい復讐心が渦巻き、いつまた悲劇が起こるか分からない、一触即発の状態にあるとも伝えられています。
そうした中、「障壁なき女性たちのイニシアチブ」は、あくまで非暴力的な手段によって、紛争状態にあるコミュニティー間の調停活動、国内避難民や貧困者への援助、平和に向けた女性たちの訓練などを進められています。イバンガ師は、「全ての人を愛するのが、牧師としての私の務めです」とおっしゃっています。敵も味方もなく、あらゆる相違を超えて、共に生きる社会を築こうとされているご努力に、改めて深く敬意を表するものであります。
仏教に、「怨みは怨みによって報いれば、ついに止むことはない。慈悲によってのみ止むのである。これは永遠の真実である」(法句経)と教えられています。歴史が証明しているように、報復は、また新たな報復を呼び起こし、憎しみや怨みの心は、さらに増幅されます。その連鎖が、無限に続くのであります。
ところで、「やられたらやり返す」という意識や姿勢は、特に男性に根強いとも言われます。一概には申せませんが、確かに、その傾向は見られると思います。
その意味では、「障壁なき女性たちのイニシアチブ」のような女性の皆さまの叡智と働きが、今後の世の中を変えていく、いわば切り札の一つになるのではないか――そのように申し上げても、決して言い過ぎではないと思います。
また、仏教に、次のような一節がございます。
「あたかも母が自分の一人息子を命にかえても守り抜くように、一切のものに対しても同じように、限りない慈しみの心をおこすがよい」(スッタニパータ)と。つまり、子供を思う母親の心が、「慈悲」の精神の象徴として表現され、教えられています。
女性は、優しさ、温かさ、思いやり、寛容性、協調性、分かち合いなど、精神的な要素が豊かであります。そうした宗教的な精神に通じる女性の特長が、憎しみや怨みの心を超え、真に平和な世界を築いていく原点と申せましょう。
また実際に女性は、地域社会や家庭という人間の根幹となる場を支えています。この世に生を享け、最初に接するのは、母親でございます。釈尊も、人物を育てる重要な要素の一つとして、「母親の感化」を挙げています。誰もが、その絶大な影響を受けて、人格の基礎を形成していくのであります。
最近、自身の置かれた状況に不満を感じ、過激組織に関心を抱く若者が世界的に増えていると言われております。そうした過激主義に走るか、走らないか、暴力的な行動を是認するか、しないかも、若者が母親にどう育てられたかに深く関わっているに違いありません。
最近十年の庭野平和賞受賞者の中で、半分の五人は女性であります。それは偶然でしょうか。私は、そうではないと思います。平和を構築する上で女性の役割がいかに重要になってきたかを、庭野平和賞委員会の皆さまが認識しているあらわれでありましょう。
とりわけイバンガ師は、ナイジェリア中央銀行で重責を担われた経験があり、組織を運営する上で、卓越した統率力、交渉力などを発揮しておられます。そうした特長も活かしながら、平和に向けた「女性の声」「母親の声」をナイジェリアのみならず、広く世界に発信してくださることを願ってやみません。
本日の贈呈式を契機として、イバンガ師の願いと行動を、より多くの人々が共有することを期待し、またイバンガ師がご健康で、これまで同様にご活躍くださることを祈念して、挨拶と致します。
ありがとうございました。

(2015年5月22日記載)