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2015年11月20日 シリア難民支援緊急報告会 国連関係者が現状を説明

立正佼成会一食(いちじき)平和基金運営委員会(委員長=沼田雄司教務局長)による「シリア難民支援緊急報告会」が11月20日、大聖ホールで行われ、本会職員ら約50人が参加しました。

今年度、同基金からシリア難民支援に2500万円が拠出されました。浄財は、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)とWFP(国連世界食糧計画)の事業に充てられています。同報告会は支援事業の内容や現地の状況について学びを深め、「一食を捧げる運動」の啓発を図ることを目的に開かれました。
席上、UNHCR駐日事務所の小尾尚子副代表、WFP駐日事務所の吉村美紀民間連携推進マネージャーがシリア難民の現状と活動を紹介しました。
小尾氏は、大量の難民が発生しているシリア情勢に言及。人口2200万人の半数以上が難民や国内避難民になっていると説明しました。また、難民の移住先での生活に触れ、紛争で母子家庭となり、貧困のため児童労働や児童婚の問題が生じていると指摘しました。
続いて、吉村氏が難民への食糧支援について報告しました。難民には食糧引き換え券が配付され、ヨルダンなどにUNHCRが開設した難民キャンプ内のスーパーマーケットで食料品を購入できると説明。引換券は難民が逃れた周辺国でも利用でき、受け入れ国に雇用や収入などをもたらす経済的支援にもなっていると解説しました。
このほか、妊婦と5歳までの乳幼児を対象に栄養価の高い食料品を提供する「母子栄養支援」、学校など教育現場での「給食支援」を紹介。シリアの難民支援事業には週に30億円を要すると述べ、同基金による支援の継続を訴えました。
なお今回の同基金の支援に対し、両国連機関から本会に感謝状が贈られました。

UNHCR駐日事務所・小尾尚子副代表

■国民の半数が避難民化したシリア
昨年(2014)末の時点で、世界の難民と国内避難民の総数は、約6000万人に上りました。この数は第二次世界大戦後、最多となります。2012年には4秒に1人の割合で難民が発生していた計算ですが、昨年末は2秒に1人、1日に4万2500人が難民や避難民などになっている状況です。
現在の難民問題で、特に深刻なのはシリアです。シリアで紛争が始まったころ、中東地域では「アラブの春」という民主化運動が大きなうねりとなっていました。その一つとして起きたシリアでの対立でしたが、数カ月、長くても1年ぐらいでこの紛争も収束するのではないかというのが、ほとんどの人の見方でした。ところが、シリア紛争はすでに5年目を迎え、長期化するとともに状況は複雑化し、人々の置かれた環境は悪くなる一方です。
シリアの紛争は、政府と反政府勢力が相対するだけでなく、多数の武装勢力が乱立し、対立の構図が複雑化している状況が存在します。人々が食糧を手に入れるには各勢力の検問所を越えなくてはならなかったり、場合によってはその検問所で拘束される危険性もあります。市民が日常生活に必要な食糧を手に入れることすら、非常に難しいという事態が発生しているわけです。
こうした状況の中、シリアの人たちは、身の回りの物だけを持って砂漠を歩き、トルコやレバノン、ヨルダン、イラク、あるいはエジプトへと渡っています。レバノンの人口は400万人といわれていますが、すでにシリアから100万人の難民が入国しています。当初は「自分たちは兄弟のような存在なのだから」と、寛大な心で温かく受け入れてきた近隣諸国ですが、多数の難民が流入するにつれ、社会、経済、政治的にひっ迫する状況が作られています。
すでに約430万人のシリア難民が近隣諸国に逃れた一方、まだ国境を越えられずに国内で避難民になっている人々が650万人に上るといわれています。紛争が起こる前のシリアの人口は2200万人ですから、国民の半数が難民や国内避難民になったことになります。

■引き裂かれる家族
シリア難民の中には、一家の長である父親が、政府軍の兵士に徴用されたり、反政府デモに参加して逮捕されてしまったりしたという家族が少なくありません。爆撃で亡くなってしまったというケースもあります。一方、シリア人の女性というのは、本来、父親や夫たちに守られながら家庭にとどまり、家事に専念するのが一般的です。住み慣れた町から出たことのない女性が、紛争で夫や父親を失い、自分たちの身の危険を感じて逃避を決断することは、いかばかりであったかと思います。知り合いも親族もいない土地で、子供を抱えて生きていく母親の不安と恐れは、かなりのものだったでしょう。
現在、シリア難民を受け入れている近隣諸国において、難民キャンプに身を寄せている人は、難民全体のわずか20%にすぎません。80%の人々は、避難先の都市や地方で家やアパートを借りて住んでいるといわれています。当初持ってきたいくばくかのお金もすぐに底をつき、見も知らない土地で生活費を稼ぎに仕事に出るというのは並大抵の苦労ではありません。わずかな収入では子供を養うことはできず、人道支援機関からの援助も現在は必要額の半分程度しか集まっていない状況の中では、子供たちも家計を支えるために工場や工事現場などで働かざるを得ません。そうした事情から、子供が劣悪な環境で酷使される児童労働の問題が深刻化しています。
少女の児童婚も大きな問題になっています。経済的な事情もあり、母親は「娘が幸せになれるなら」という思いで、裕福なアラブ商人などに幼い娘を嫁がせるケースもあるという報告があります。こうした児童婚は人権に関わる大きな問題です。

■難民への幅広い理解を
シリア難民の中には、近隣諸国だけでなくヨーロッパを目指す人たちもいます。今年、ヨーロッパにたどり着いた難民は80万人を超えました。
小さなボートに乗って地中海を渡り、ギリシャから北に移動する人々が増える中、シリア人のアイラン君という3歳の少年の遺体が、トルコの海岸に打ち寄せられました。その様子を伝える写真は、世界の人々の心を大きく揺さぶりました。各国でシリア難民の問題に対する認識が高まり、難民を受け入れようという動きが盛んになったのは、この事故以降です。イギリスやニュージーランド、その他の国も次々に、シリア難民の受け入れを表明しました。
しかし、現在、ヨーロッパ諸国の対応はさまざまです。以前は前向きな姿勢を示していた国が、大量の難民が流入することを懸念し、難民に対して厳しい政策を打ち出そうとする国も出てきています。
シリアの近隣諸国やヨーロッパでは、これから本格的な冬が訪れます。多くの難民が十分に暖を取ることができない状況が予想されます。UNHCRでは、毛布やテント、ストーブの支援がより必要になると考えています。皆さまのご支援のおかげをもちまして、活動は順調に進んでいるというご報告を実は申し上げたかったのですが、必要な活動資金はまだ45%にすぎないというのが現状です。これまで本当に温かいご支援を頂いておりますが、引き続きご理解とご協力をお願い致します。

WFP駐日事務所・吉村美紀民間連携推進マネージャー

■難民の暮らしを支えるための仕組み
国連WFPは毎年、約80カ国で活動を展開し、8000万から9000万の人々に対して食糧支援を行っています。そのうちの一つ、シリアでは国内の避難民約425万人と、ヨルダンやレバノン、エジプト、イラク、トルコなどの周辺国に逃れた難民約120万に支援を行っています。
紛争から命からがら逃れてきた人々は、衣類や貴重品といった最小限の持ち物だけで、食糧を持っていない場合がほとんどです。国連WFPでは、難民キャンプに到着したばかりの人々に、缶詰や高エネルギーのビスケットなどをセットにした「ウェルカムミール」というものを手渡し、まず、急場をしのいで頂いています。その後、小麦や食用油、砂糖、レンズ豆、塩といったシリアの方々が日ごろ食べているものや、バウチャーと呼ばれる食糧引き換え券を配付しています。
ヨルダンにある大規模な難民キャンプには食糧が流通する市場があり、そこでこのバウチャーを利用して食べ物を手に入れられる仕組みになっています。このバウチャーシステムは、受け入れ国側の地元の人たちとの関係性の構築に一役買っています。
難民の方々が大量に流入してくると、地元の人たちは仕事を難民にとられるのではないか、治安が悪化するのではないかと難民を警戒しがちです。また、自分たちも貧しい暮らしを送っているのに、なぜ難民だけがWFPから食糧援助を受けられるのかと不満が生じ、対立に至ってしまうケースがあります。ところが、このバウチャーシステムにより、難民の方々が現地の市場を利用することで現地の人々にも利益をもたらし、新たな雇用も創出されるという好循環を生み出しています。
ヨルダンでの話になりますが、昨年の1年間で、バウチャーシステムを通してヨルダンに投入された金額は、国のGDPの0.7%に上ったといわれています。多くの雇用も創出されました。シリアからの難民の方々と、受け入れ国の人たちの双方の暮らしに配慮した支援が重要です。
現在、マスターカードと提携したプリペイドカードのようなEバウチャーという仕組みを導入しています。そのカードには、国連WFPの資金状況にもよりますが、1カ月に1人当たり14ドルから28ドルぐらいが振り込まれます。微々たる額に思うかもしれませんが、難民の方々にとっての命綱であり、しかもその地元の人々にも利益をもたらすようになっています。

■通学を促す給食支援
シリア国内の避難民に対し、「母子栄養支援」にも積極的に取り組んでいます。家やふるさとを追われた小さな子供や妊産婦は、どうしても栄養が不足しがちです。5歳までの子供たちに対し、特別に栄養を強化した食品を配付し、妊産婦には不足しがちな栄養素を補うための支援をしています。
また、避難生活が長引くと、子供たちは学校に通えず、教育の機会を逃してしまいます。公的な学校がある難民キャンプはわずかで、多くの子供は、非公式な教室で基礎的な知識を習得する学習の機会を得ています。国連WFPでは、そのような教育現場での給食支援に力を入れています。給食というと、温かい食べ物を想像する方もいらっしゃると思いますが、そのような食糧を提供できる環境ではありませんので、栄養価の高いクッキーのような甘いお菓子を1日1つ、子供たちに配付します。
この支援で重要なのは、給食を一つのきっかけに子供たちが学校に来てくれるということです。現地の子供たちは、児童労働や早婚といった危険にさらされています。しかし、このような支援によって子供の足を学校に向かわせ、親の協力も促すことができるのです。
一方、複数の子供を抱えているある難民の母親は、避難先の地域のスーパーで働き始め、その収入でなんとか生活しているという状況です。職を得ることは本人にとって喜ばしいことですが、現金収入があるために食糧支援の優先順位は下がってしまいます。現在、国連WFPのシリア難民に対する活動資金は不十分で限られており、子供の数が多い家庭や母子家庭、また障害者や病人のいる家庭への支援が優先され、仕事を得た家庭は厳しい生活でありながらも、そうせざるを得ないのです。
急増するシリア難民の支援には、多額の資金を必要としています。現在、シリアの難民支援には、毎週約30億円が必要とされ、年末までには約200億円の追加資金を用意しなくてはならない状況です。
このほど、立正佼成会の「一食平和基金」から1000万円の支援を頂きました。この金額で、例えばレバノンにいる約4000人の難民の方々が1カ月間、食糧を得ることができます。また、ヨルダンの難民キャンプで学校に通っている約2万人の子供たちの学校給食の約1週間分をまかなうことができます。皆さまからのご寄付がなければ、この数の人たちがおなかを空かせたままで過ごさなくてはならないというような状況です。大変貴重なご支援に、改めて感謝させて頂きます。

(2015年12月 3日記載)