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2016年01月08日 カンボジア宗教省と「カンボジア仏教研究復興支援事業」に調印


8日午後、宗教省での調印式を前に、一食平和基金運営委員会の根本委員長はムン・クン同省大臣と懇談しました

1990年代の初頭まで20年以上にわたり続いた内戦で、甚大な被害を受けたカンボジアの仏教研究の復興を立正佼成会が支援する「カンボジア仏教研究復興支援事業」の調印式が1月8日、首都・プノンペン市の宗教省庁舎で行われました。本会一食(いちじき)平和基金運営委員会の根本昌廣委員長(宗教協力特任主席)とムン・クン宗教大臣が、同事業の合意文書に署名、調印。また、根本委員長は同国の政府関係者、宗教指導者らと会談したほか、同基金とSVA(シャンティ国際ボランティア会)合同の植樹事業なども視察しました。


本会の支援により、2002年に再建された現在の仏教研究所。その奥に国会議事堂の2本の尖塔(せんとう)

カンボジアは仏教を国教とし、僧侶が国民に倫理・道徳観を説き、寺院は教育の普及、文化の伝承を担っています。国民の暮らしには仏教が深く結びついており、カンボジア国立仏教研究所が果たす役割は大きく、前身の同国立図書館が1921年に創立されて以来、国の中央組織として仏教の研究や関連書籍の出版に携わってきました。
しかし、75年から約4年間続いたポル・ポト政権の仏教弾圧(メモ参照)により、同研究所は閉鎖。所蔵する経典や書籍の大半も焼却され、国民の心の依りどころである仏教は徹底的に破壊されました。
同政権崩壊後も続いていた内戦は、91年にパリで開催された「カンボジア和平パリ国際会議」で、最終合意文書の調印に至り、終結しました。その後、宗教省が設置され、研究所はウナロム寺院の一角で再開。しかし、研究所施設の老朽化が著しく、その再建はカンボジア仏教復興のシンボルと位置付けられ、本会への支援要請がSVAを通じて寄せられました。
これを受け、本会では、国家再建の上で仏教の復興は不可欠との観点から、「開祖さま卆寿(そつじゅ)記念事業」として、一食平和基金からの支援を決定。1億2400万円の建設費を支援し、98年の「第1期落成」を経て、2002年に第2期工事が完了し、仏教研究所が再建されました。
しかし、07年に研究所の運営支援に携わっていた有力な支援団体が撤退。運営資金の減少からスタッフの離職が相次ぎ、僧侶の必読誌である宗教文化雑誌『カンプチヤ・ソリヤ』の休刊、蔵書管理機能の低下などの事態に陥りました。
14年にソー・ソクニー同研究所所長が就任し、同誌が復刊したものの、不安定な運営が続いていました。
こうした状況を受け、一食平和基金運営委員会では、昨年1月から現地調査を開始。現状把握を行い、研究所スタッフと共に同所の復興について協議を重ねました。その上で、18年までの3年間にわたり、同基金と宗教省のパートナーシップのもと「カンボジア仏教研究復興支援事業」の実施を決定。同基金から約2200万円が支援され、研究所では『カンプチヤ・ソリヤ』の年4回の定期発刊、スタッフの蔵書管理能力向上を目的とした研修などの活動が推進されます。
8日午後にプノンペン市内の宗教省庁舎で行われた調印式には、カンボジア側から、ムン・クン同省大臣はじめソー所長ら11人が出席。本会からは、根本委員長が列席しました。
調印に先立ち、根本委員長は同庁舎の応接室でムン大臣と懇談しました。席上、大臣は一食平和基金によるこれまでの支援に対し謝意を表明。根本委員長は研究所の発展に期待を示しました。
ホールで行われた調印式では、両者が事業の合意文書に調印し、固い握手を交わしました。
式典後、根本委員長は、「仏教研究の復興が、国の未来を左右するほど重要であることを改めて実感しました。仏教研究所の再生に私たち日本の仏教徒の浄財が生かされることの意味は大きい」と語りました。


8日午前、仏教研究所でソー・ソクニー所長らと事業に向け意見交換が行われました

宗教者らと会談


根本委員長は9日、ウナロム寺院を訪問。テップ・ボーン法王は、「仏教の復興は人々の心の復興に等しい」と語りました

根本委員長は8日午前、仏教研究所でソー所長に面会。事業達成に向けた情報交換などを行いました。
翌9日午前には、プノンペン市内のカンボジア王室庁を訪れ、同庁のイー・トン大臣と会見。このあと、同国仏教の最大会派であるモハー・ニカーイ派総本山のウナロム寺院では、テップ・ボーン法王を表敬訪問しました。午後は同市内のSVA事務所で、スタッフから事業報告を受けました。
さらに10日、スヴァイリエン州に入り、かつて一食平和基金とSVAが合同で実施した植樹の事業地を視察しました。

立正佼成会の皆さまへ カンボジア宗教大臣 ムン・クン

立正佼成会の皆さまが一食分を抜いて献金してくださった浄財により、仏教研究所の再建をはじめ仏教の研究、クメール語書籍などの復刻および出版、配布の活動が展開でき、これまで多くの研究者や僧侶を育成できたことに感謝します。そして、このたびの仏教研究の復興事業に支援をしてくださることに、重ねて御礼申し上げます。
現在のカンボジアで最も危惧されるのは、国民がポル・ポト政権時代に負った心の深い傷が癒えぬままに経済発展の影響を受け、仏教を基盤とした倫理・道徳観を見失いつつあることです。今後、研究・教育活動を通じて人々の心に仏教精神を浸透させ、世界の宗教文化や平和構築に貢献できる研究所になるよう、これからも立正佼成会との協力関係を築いていくことを念願いたしております。

メモ ポル・ポト政権の仏教弾圧

1975年から79年まで、カンボジアで共産主義思想に基づいた独裁的な統治を行ったポル・ポト政権は、政権を脅かしかねない元政府関係者や教育者、医師、技術者といった知識層の国民を虐殺。国民の200~300万人が命を落としたとされています。この中には、多くの僧侶も含まれ、教育や伝統文化とともに仏教をはじめとする宗教も徹底的に弾圧されました。生存した僧侶は還俗(げんぞく)させられ、寺院の9割が破壊されたことで、カンボジア人の精神的な基盤である仏教が衰退しました。

(2016年1月21日記載)