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2016年01月25日 モロッコでイスラームの国際会議 光祥次代会長が仏教者の立場から発言


閉会セッションで、タフィーク大臣が「マラケシュ宣言」を発表。平和に向けた歴史的とも言えるメッセージが、イスラームから発信されました

1月25日から27日まで、モロッコ・マラケシュ市内のホテルで、同国のワクフ(宗教寄進制度)・イスラーム省とUAE(アラブ首長国連邦)に本部を置く「イスラーム平和促進フォーラム」の共催による『ムスリム多数派コミュニティーにおける宗教的少数派の人権――法的枠組みと行動への呼びかけ』と題する国際会議が開催されました。各国のイスラーム聖職者、同法学者、イスラーム省大臣、諸宗教代表ら約300人が参集。同省の招聘(しょうへい)を受け、立正佼成会から、WCRP(世界宗教者平和会議)国際共同議長を務める庭野光祥次代会長が出席しました。根本昌廣宗教協力特任主席が随行しました。


諸宗教の分科会で、光祥次代会長は「縁起観」をもとに、仏教的視座を示しました

同会議を主導した「イスラーム平和促進フォーラム」会長のシェイク・アブダッラー・ビン・バヤア師は、イスラーム・スンニ派の高位指導者で、光祥次代会長と共にWCRP国際共同議長を務めています。また、会議を後援したモロッコのムハンマド六世国王は、同国ではイスラーム共同体の指導者(カリフ)の地位にあり、改革や民主化を進め、アラブ世界の和平に積極的に貢献しています。イスラーム圏をはじめ国際社会からの関心は高く、多くのマスメディアがその模様を報じました。畠山友利ACRP(アジア宗教者平和会議)事務総長、杉野恭一WCRP国際委員会副事務総長も参加しました。
会議では、特に「メディーナ憲章」に焦点が当てられました。「メディーナ憲章」とは、622年にメディーナ(現在のサウジアラビアの都市。メッカと共にイスラームの「二聖都」とされる)に招かれたイスラームの預言者ムハンマドが、宗教的・民族的少数派の保護、信教の自由などを定めたものです。全市民の権利と義務、ムスリム・ユダヤなどのコミュニティーの関係性を規定し、無差別報復などの暴力を禁じ、信仰を共同体の基礎として宗教共存による安全保障の原理が明文化されています。
ビン・バヤア師は25日、開会セッション後の「会議構想スピーチ」の中で、現在、ムスリムが多数派を占めるいくつかの国で、宗教的少数派に対する残虐行為が行われていることに遺憾の意を表明。これらの暴力はイスラームの教えとは関係なく、神や預言者への冒瀆(ぼうとく)であり、ムスリムへの裏切りと断じました。さらに、イスラームの法学者、哲学者、有識者の学識と研究に基づいて、過激派の論理を打ち破ることが社会的に望まれていると言及。「メディーナ憲章」が歴史的に大きな役割を果たしながら、十分に研究されてはこなかったと論じた上で、同憲章の歴史的意義や目的を再確認し、イスラーム法に基づいて、宗教的少数派を保護し、各派間の相互理解を進めることが重要と訴えました。
3日間の会議プログラムでは、25日の開会セッションで、ムハンマド六世、潘基文国連事務総長のメッセージが紹介され、エジプト、パキスタン、セネガル、UAEのイスラーム省大臣による基調発題が行われました。
この後、『ムスリム多数派国家における宗教的少数派の問題の概観とその根底にあるもの』『市民権や他者に対するイスラームの視点』『イスラームの歴史における共存の経験』などをテーマに全体パネルを実施。IS(イスラーム国)を名乗る過激派組織から非道な攻撃を受けている宗教的少数派のヤジディ教徒の代表も凄惨(せいさん)な現状を訴えました。パネル1では、KAICIID(アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター)のファイサル・ムアンマル事務総長が議長を務めました。


光祥次代会長は諸宗教代表の一人としてビン・バヤア師(右端)と会見。諸宗教者が「マラケシュ宣言」を、イスラームからの重要なメッセージとして広く伝えていくことも確認されました

「マラケシュ宣言」を採択

ムスリムとそれ以外の諸宗教に分かれてのワークショップも行われました。諸宗教のワークショップではウィリアム・ベンドレイWCRP国際委事務総長が議長を務め、ユダヤ教、キリスト教などそれぞれの観点から市民権や宗教間の関係について意見が交わされました。席上、仏教者の立場から光祥次代会長が発言し、仏教では人間を人と人との関係の中でとらえており、それは固定されたものではなく、動的なものであると「縁起観」に基づいた見方を紹介。他の宗教があるおかげで自分の宗教が感じられ、他の全ての人に支えられて自分が存在すると述べ、「私が朝食で食べたバナナをフィリピンの農場の子供たちが収穫したのだとすれば、私はいま、その子供たちに支えられて存在し、それだけではなく、私の中にその子供たちが共に生きていると考えることができるのです」と「自他一如(いちにょ)」の考え方を示しました。その上で、「私が仏教徒として、キリスト教、ユダヤ教、イスラームなど他の宗教の方々を証明することが、自分自身の役割」と結びました。
最終日の27日、閉会セッションでは、イスラーム聖職者、同法学者らによって検討が重ねられた「マラケシュ宣言」が、モロッコ・ワクフ・イスラーム省のアーメド・タフィーク大臣から発表され、採択されました。
宣言では、「会議構想」を反映して、「メディーナ憲章」など法的な根拠に基づき宗教的少数派の保護、信教の自由、市民権の確立のために具体的に行動し、取り組んでいく大切さを強調。イスラーム以外の諸宗教に対しては、宗教的な憎悪や偏見を克服していくよう求めています。

バチカンの各メディアで大きく報道

マラケシュでの国際会議は、バチカンの各メディアで大きく報道されました。1月28日付のバチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」は「イスラームの真の伝統を主張することで、ISのイデオロギーに対抗する機会になった」と高く評価。「アジアニュース」(ローマ教皇庁外国宣教会国際通信社)は「マラケシュ宣言」の全文を掲載しました。

(2016年2月 4日記載)