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2016年01月27日 WCRP日本委が「新春学習会」 『対立から和解へ』テーマに

『対立から和解へ――戦後の歩みをふまえて――』をテーマに、WCRP(世界宗教者平和会議)日本委員会の「新春学習会」が1月27日、法輪閣第5会議室で行われ、約150人が参加しました。
当日は、平和の祈り、杉谷義純同委理事長(天台宗宗機顧問)のあいさつに続き、臨床心理士で明治学院大学名誉教授の井上孝代氏が基調発題を行いました。

井上氏は、現代における人間関係のトラブルは情報化社会がもたらすストレスに起因していると説明した上で、「傾聴」と「共感」によって相互理解を深める「対話型コミュニケーション」の必要性を強調。これを用いて、対立を平和的かつ創造的に解決する「トランセンド(超越)法」を紹介しました。
続いて、『和解に向けた宗教者の役割』と題したパネルディスカッションを実施。パネリストとして、井上氏、松井ケティ平和教育タスクフォースメンバー(清泉女子大学教授)、坪内教至同委青年部会事務局長(立正佼成会習学部青年ネットワークグループ)が登壇し、山本俊正平和教育タスクフォース運営委員(関西学院大学教授)がコーディネーターを務めました。
この中で、松井氏は、互いの思いを理解し合い、信頼関係を回復することが和解への糸口と指摘し、対話の重要性を強調。また、他者への共感や思いやりを大切にする南アフリカの精神文化「ウブントゥ」や、ハワイの先住民族に伝承される問題解決法「ホ・オポノポノ」などを例に、和解に向けた取り組みを紹介しました。
次いで坪内氏は、本会と第二次世界大戦で多くの市民が犠牲となったフィリピンとの間で1973年から始まった交流の歴史を振り返り、「サンゲ」と「許し」の精神によって両者が歩み寄ることができたと説明。フィリピンでのホームステイプログラムなどを通じて友情を深め、同国の教育支援事業の協働につながった成果について話しました。
この後、質疑応答が行われ、井上氏が和解における「祈り」の有効性を挙げ、宗教者の役割に期待を寄せました。

対立から和解へ

明治学院大学名誉教授 井上孝代

現代社会のストレスの要因の一つに「情報化」が挙げられます。インターネットの普及などにより各人のコミュニケーションや価値観、文化間に問題が生じ、ストレスに対して自分で自分を守れないという人が増えているのです。
こうした問題を抱えた人に対し、本人を直接サポートする「援助」が主でした。これからは、本人が自分の力で問題を解決できるよう、専門家も非専門家もいろいろな人が力を合わせて支えていく「支援」の形が求められています。
この「支援力」を身につけるには、まずは自己理解が必要です。「自分」とは「自を分ける」と書きますが、自分と人を分け、その違いに気づく、人と違う自分を信頼していく中に自己肯定感が生まれます。そのように自分を思いやることができて初めて他者理解につながり、自他の相互理解が生まれ、社会に支援関係が構築されていきます。この自己理解から他者理解に向かう道筋が重要なのです。
また、相互理解には「共感的コミュニケーション」が必要です。対立する場には二つの側面があり、一つは価値観、もう一つが感情のぶつかり合いです。コミュニケーションを図る場合も感情をどう扱うかが課題で、たとえば、激昂(げきこう)する相手に「あなたは間違っている」とストレートにぶつけても対立を生むだけですが、「私は別の意見を持っている」と〝I(アイ)メッセージ〟を活用することで、共感を土台とするコミュニケーションが成立します。
さらに、傾聴も大事。「聴」という字は「聴(ゆ)る=ゆるす」とも読め、感情を込めて聴くことは、相手を許すことといえます。私はこの「聴」という字に、コミュニケーションのすべてのエッセンスが詰まっていると思うのです。
国際平和学者のヨハン・ガルトゥング氏は、そうした感情の共感と傾聴によるコミュニケーション(対話)で、対立の方向性(ベクトル)を変える「トランセンド法」を提唱しました。従来の問題解決は、勝敗をつけるか妥協点を探る、もしくは両者の撤退という形で行われました。しかし、ガルトゥング氏は「対立は解決ではなく転換(トランスフォーメーション)するもの」と考え、対立する両者が共に生かされる、妥協点を超越した先の「ウィン・ウィン」の関係を築く視点を目指す方法を見いだしたのです。
自分への共感があってこそ、人にも共感できます。対立する両者の間にこうした共感が生まれたとき、互いの心の壁が取り払われ、対話による和解の道が開かれるのではないでしょうか。  

(2016年2月 4日記載)