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2016年02月12日 一食平和基金 平成28年次の運営計画を発表 国内外の事業に3億1720万円


ヨルダンのシリア難民キャンプでは、ジェンと共に水・衛生事業を実施。「一食運動」の浄財は、世界から飢えや貧困がなくなることを願って、さまざまな事業に拠出されます

立正佼成会一食(いちじき)平和基金運営委員会(委員長=根本昌廣宗教協力特任主席)はこのほど、平成28年次の同基金運営計画を発表しました。「貧困(飢餓)の解消」「教育・人材育成」「緊急救援・復興支援」の重点項目をはじめ10分野の事業に充てられる予算総額は3億1720万6000円。中期運営方針(平成25〜29年)に掲げられた「一乗精神に基づく共生の世界実現」を目指すため、NGOなど多くの団体と協働でさまざまな活動が展開されます。

本会一食平和基金は、会員が、飢餓や貧困に直面する人々に思いを馳せて食事を抜き、平和を祈りながらその食費分を献金する「一食を捧げる運動」の浄財です。同運営委員会は、中期運営方針に則し、今年の運営計画を策定しました。
昨年7月に発表された国連の「ミレニアム開発目標(MDGs)」の報告書によると、一日1.25ドル未満で生活する極度の貧困層は、1990年の19億人から半減したものの、8億3600万人がいまだその状態にあります。多くはアジアやアフリカの開発途上国の人々です。
こうした現状を受け、「貧困(飢餓)の解消」の分野では、国連WFP(国連世界食糧計画)と協働で食料不足に直面しているブータンの子供たちに学校給食を提供し、栄養改善と就学率の向上を図る事業に取り組んでいます。ラオスとカンボジアでは、豊かな自然資源を生かした持続的な有機農法で食料自給率を高める「農業・環境・地域開発事業」を実施。また、「アフリカへ毛布をおくる運動」の輸送費などにも浄財が役立てられています。
一方、民族や宗教などの違いを尊重し、貧困の解消や平和の実現を達成するには、「教育・人材育成」が重要との観点から、この分野の事業が決定しました。紛争や対立で心が傷ついた世界の子供たちに、励ましのメッセージとともに文房具などを詰めておくる「親子で取り組むゆめポッケ」の活動を今年次も継続。さらに日本に逃れてきた難民について理解を深める「国内難民支援事業」、内戦で壊滅的な被害を受けた仏教の研究機関の再建に寄与する「カンボジア仏教研究復興支援事業」などに予算が計上されました。
「緊急救援・復興支援」では、東日本大震災の被災者を継続的に支援する「こころホット」プロジェクトをはじめ、岩手、宮城、福島の3県で復興活動を展開する住民組織・NPO法人に資金が助成されます。さらに、自然災害や紛争が発生した際には、現地で救援活動を行う団体を資金面でサポートする予定です。
このほか、「環境への取り組み」「保健・医療・福祉」などの分野でもさまざまな事業を進めます。各教会が同基金の浄財の一部を主体的に活用し、それぞれの地元の諸課題に取り組む非営利団体への支援を通して温かい地域社会づくりを目指す「一食地域貢献プロジェクト」を実施。また、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)を通じた難民支援、マラウイでのHIV(エイズウイルス)陽性者やエイズ患者に対する医療支援事業、内戦や干ばつにより激減したエチオピアの森林復興事業などに浄財が役立てられます。

▼貧困(飢餓)の解消
『農業・環境・地域開発事業(JVC=日本国際ボランティアセンター)』


化学肥料を使わずに米の収穫量を上げる農業技術を学び、実践するラオスの人々

JVCとの合同事業を2003年に開始。大規模なインフラ開発などで国内での経済格差が広がり困窮するカンボジア、ラオスの農村住民が、自身の力で生活レベルを向上できるようサポートします。「東南アジア農村地域における食料確保プロジェクト(ラオス)」では、土地の権利に関するセミナーや農業技術研修の実施、米や家畜を農村住民に貸し付ける銀行システムの導入、井戸の掘削工事の推進など、自然資源を利用して生活改善を図る持続可能な取り組みが進められています。

▼教育・人材育成

『難民支援事業(JAR)』


難民に対する理解を深めてもらおうと「難民アシスタント養成講座」を開催。積極的に啓発活動に取り組んでいます(写真提供・JAR)

JARとの合同プロジェクトは、戦争や政治的な理由などにより母国から日本に逃れてきた難民についての理解と難民認定を促進するため、2008年にスタートしました。広報活動、情報発信、教材の開発などを通し、日本人の意識啓発に努めます。また、難民の郷土料理を大学の学生食堂のメニューに加え、食を通じて難民への理解を促す取り組みも実施しています。

『国連支援助成(UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関)』


看護学校で学ぶパレスチナ難民の学生たち。浄財が奨学金として活用されています(写真提供・UNRWA)

パレスチナを離れざるを得なかった難民の中でも、特に貧困層の多いレバノン在住の難民を対象に看護師養成プログラムを1988年から実施。UNRWAを通じて、看護学校に通う学生に奨学金の給付を行い、難民の安定した生活基盤の確立を図りながら、社会で貢献できる人材の育成に取り組んでいます。看護学校を卒業した奨学生たちは、看護師の需要が高いレバノンをはじめ湾岸アラブ諸国などの諸地域で働いています。

▼臨時助成

『AMDA社会開発機構』


ネパールの村に設けられた「診療キャンプ」。震災後、その機能がさらに強化されました(写真提供・AMDA社会開発機構)

困窮する人々の援助に当たる団体からの要請を受け、その都度判断して支援するものです。昨年は4月に発生したネパール大地震で、AMDAが取り組んだ「ネパール震災被災者に対する保健医療支援事業」を援助しました。対象地域に設置された複数の「診療キャンプ」では、各会場に心理カウンセラーを配置し、震災後のトラウマ(心的外傷)の相談を受け付けたほか、保健衛生の啓発活動を行うなど、被災者の心身両面のケアに浄財が役立てられました。

『マラウイ赤十字社』


学校で食事の提供を受け、笑顔を見せるマラウイの少女。給食は未来を担う子供たちの成長を支えています

昨年次は、マラウイ赤十字社を通じ、貧困や飢餓に苦しむ子供たちの栄養状態の改善を図る「学校給食プロジェクト」を支援しました。同プロジェクトの対象となったのは、マラウイ・デッザ県内の小学生と保育園児約1300人で、地方行政と連携して事業が進められました。毎朝提供する給食により、栄養状態の改善や病気の予防だけでなく、子供たちの学校教育の機会を広げる役割も果たしました。

根本昌廣新委員長の談話

1975年に本会が「一食を捧げる運動」に取り組み始めて以来、現在までの40年間に139億円以上が、貧困や飢餓への取り組みや難民支援、緊急救援・復興支援をはじめさまざまな分野で活用されてきました。これも、多くの皆さまが「同悲」「祈り」「布施」の精神を基に食事などを抜き、紛争や貧困などに苦しむ世界の人たちの幸せを願いながら浄財を献じてくださったおかげさまです。この場をお借りし、厚く御礼を申し上げます。
私たちは、運動を実践することで自ら空腹感を味わい、飢餓のただ中にある人々の痛みを少しでも分かち合い、寄り添おうと努力することができます。この「分かち合い」の心がとても重要です。ともすれば、「援助する側」「援助される側」という意識が生まれがちですが、「一食運動」は「私たちは大いなる一つのいのちに生かされた同根の兄弟姉妹である」との「一乗」の教えに基づいた運動であり、その精神の具現に大きな意義があります。人類は皆、地球上の〝家族〟であり、同じいのちを頂く仏の子にほかならないのです。
昨年、同運動40年の節目にあたり、会長先生は、次のようにご指導くださっています。
『日本の国の礎(いしずえ)として聖徳太子は、「和を以(もっ)て貴(たっと)しと為(な)す」という言葉を十七条憲法の第一条に掲げられました。そうした日本の国家的、民族的な理想をしっかり「追遠(ついえん)」し、思い起こして、平和な国家、世界を築いていくことが、「一食運動」の真の目標と言えるのではないでしょうか』
このことをしっかりとかみしめ、私たち会員が一丸となって「和」の理想の実現、世界平和の実現を目指し、「いつでも、どこでも、だれにでも、いつまでもできる」運動の意義を再確認し、多くの人たちに運動への理解と実践の輪を広げられるよう率先していきたいと願っています。今後とも一層のご協力をお願い申し上げます。

NGOの現場から 
難民支援協会代表理事 石川えり

立正佼成会と難民支援協会のご縁は長く、1999年の本会設立前から支援してくださっている唯一の団体です。今年次もご支援くださり、誠にありがとうございます。
事務所には連日、住む家どころか食べ物さえない方々が来訪されます。まずは温かいもので一息ついて頂いた後、JARではまず、難民を取り巻く厳しい日本の状況についてお伝えした上で、この状況をどう乗り切っていくか、一緒に考えましょうと難民の方に言葉を投げかけます。難民自身が気持ちを強く持ってこの事態に向き合えるよう一人ひとりへのカウンセリングが欠かせません。一方、事務所を閉める夜になると、「泊まる家がほしい」と切実な願いを口にされます。日本では、難民に対する国からの十分な支援がない中、民間団体の支援が不可欠となっており、私たちはこうした方々が宿泊するシェルターを確保していますが、資金面などの課題から全ての人を受け入れ切れないのが実情です。
現在、難民と難民申請中の方々などへの定住や生活サポートに加え、国の制度改善を促す政策提言などの活動を行っています。これらの活動を推進する上で重要なのは、多くの人に難民について知って頂くことで、広報活動にも取り組んでいます。
パリでの同時テロなどの報道によって今、難民に対するネガティブなイメージが先行しています。これらは大変な事件であるものの、難民問題の本質や全体像を表すものではありません。今こそ、誤解や偏見を生まないよう正しい情報の発信が大切だと考えています。
私たち一人ひとりが難民問題を自分のこととして捉え、人類共通の課題として考えるきっかけを提供するために、「一食を捧げる運動」の浄財を市民の啓発活動に使わせて頂きます。
皆さまは、一回の食事を抜くことで、世界で起きている飢えや貧困といった課題をわがこととして受けとめようとされています。その同悲に基づく祈りを難民の方々にお届けしながら、今後の支援に当たらせて頂きます。

(2016年2月12日記載)