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2016年05月12日 「第33回庭野平和賞」贈呈式 名誉会長挨拶

本日は、「第33回庭野平和賞」の贈呈式にあたり、文部科学事務次官・土屋定之さま、駐日スリランカ大使・ダンミカ・ガンガーナート・ディサーナーヤカさま、日本宗教連盟理事長・齋藤明聖さま、駐日ローマ法王庁大使・ジョセフ・チェノットゥさまをはじめ、多くのご来賓のご臨席を賜り、あつく御礼申し上げます。
今年度の庭野平和賞を、スリランカの「和解と平和構築センター」にお贈りできますことは、大変光栄なことであります。
本日は、同センターを設立されたディシャーニ・ジャヤウィーラ氏、ジャヤンタ・セネヴィラトネ氏がご出席くださっています。遠路、贈呈式においでくださり、誠にありがとうございます。
団体への平和賞贈呈は、10年ぶりとなります。2006年の「ラバイズ・フォー・ヒューマンライツ」以来、七回目でございます。
先ほど、ご紹介がありましたように、「和解と平和構築センター」は、内戦によって傷ついた人々の癒し、民族間、宗教間の和解を目指して活動を続けておられます。特に、いまだにくすぶる怨みや怒りの心を乗りこえ、真の和解を築こうと地道な努力を続けられています。
このことに関して、私は、一つの重要な歴史的な出来事を思い起こします。
1951年、サンフランシスコ講和会議にスリランカ、当時のセイロンの代表として出席したジャヤワルダナ蔵相は、「怨みは怨みによって報いれば、ついに止むことはない。慈悲によってのみ止むのである」という法句経の一説を引用して、日本に対する戦争賠償金の放棄を宣言されました。その演説が、日本が国際社会に復帰する大きなきっかけとなったことは、皆さまもご存知の通りであります。
そうした豊かな精神的土壌のあるスリランカにおいて、いま「和解と平和構築センター」は、日々、活動を進めておられます。時間はかかろうとも、必ずや真の和解、調和を実現してくださると信じております。
仏教では、「仏の世界」も「地獄の世界」も、本来、人間の心の外にあるものではなく、心の中にあると教えております。
迷いの心が甚だしくなり、人間や自然など、他者に向けて怒りの心を持つようになると、そこに地獄界が現れる。怒りの心を持つことが引き金になって、この世に地獄のような争いと差別、混乱が引き起こされるのであります。
一方、自分と他者は、本来一つであることを自覚し、人間や自然など、他者に対して、慈悲心、思いやりをもって接することができるようになると、そこに「仏の世界」が現れると教えています。
端的に言えば、どのような心を持つことで、人間が調和して生きていけるかを示したのが仏の教えである——そのように受け取ることができるのであります。
言うまでもなく、平和とは、単に、表面的に平穏な状態を指すのではありません。人の心に怨みや怒りがくすぶる限り、いつまた争いの種に火がつくか分からないからです。
紛争やテロが頻発している昨今の世界情勢を見ても、怨みの心、怒りの心をどう乗りこえるかは、最も優先されるべき課題であります。
日本の著名な女性作家のエッセーに「スペインの母」という作品があります。心に響く内容ですので、一端を紹介させて頂きます。
その女性作家は、ある時、一人の陽気なスペイン人に会われたそうです。彼はクリスチャンでしたが、この世につらいことなど何もないような顔をしていたということです。
しかし、そのスペイン人を紹介してくれた人が、あとでこう教えてくれたそうです。
「あの人のお父さんは、スペイン市民戦争の時に殺されて、その後、お母さんが10人のお子さんを育てられました。そのお母さんが偉い方で、『決してお父さまを殺した方を怨んではいけません。その人を許すことを一生の仕事にしなさい』とおっしゃったのです」と。
この話を聞いた時の思いを、その女性作家は、次のように記しておられます。
「ある人が、心の中で、自分の愛する者の生命を奪った相手を許したとして、それは、私が茶碗一個焼き上げるほどにも目に見えはしない。しかも、それは一生かかる苦しい途である。しかも許したからと言って、表彰されるというものでもない。しかし、それは、知られざる勇者の道だと私は思う。いかなる一生の目的よりも、苦しく、地味で、しかも愛の香気に満ちた崇高な事業だと思う。いや、こういうことこそが、実は人間の本当の生きる目的になり得るのである」と。
自分の愛する者の生命を奪った相手を怨み、報復することと、許すことは、どちらが難しいでしょう。許し、認め、共に生きることは、根底に宗教的な信念がなければ、なかなかできるものではありません。「和解と平和構築センター」の活動は、まさに、そうした最も崇高な事業の一つであり、さまざまな困難な状況を乗りこえて尽力されていることに、心から敬意を表する次第であります。
赤ん坊が大人になるには、ほぼ20年かかるように、本質的なことに取り組むには、20年近い歳月が必要と言われます。「和解と平和構築センター」も、諸宗教指導者、若者、女性という未来を担う人々と共に、また多くのスタッフ、ボランティアと共に、急がず、休まず、前進していかれることを願ってやみません。
本日の贈呈式を契機として、「和解と平和構築センター」の願いと行動を、より多くの人々が共有することを期待し、またディシャーニ・ジャヤウィーラ氏、ジャヤンタ・セネヴィラトネ氏がご健康で、これまで同様にご活躍くださることを祈念して、挨拶と致します。
ありがとうございました。

(2016年5月19日記載)