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2016年05月12日 「第33回庭野平和賞」贈呈式 受賞記念講演 CPBR共同設立者 ディシャーニ・ジャヤウィーラ氏

親愛なる友人たち、おはようございます。アウボワン、ワナッカム、アスウラム、アラックム!
私たちはCPBRの全てのメンバー、スリランカの宗教と地域社会のリーダーたち、青年たち、女性と地域住民の皆さん、友人やパートナー、支援者の皆さん、スリランカ国民、そして普遍の愛と支え合いの大切さを信じる全ての人々を代表して、今日ここにまいりました。

支え合いの大切さを強く信じる私たちは、宇宙とは「相互関連が織りなす網」であり、「相互結合が織りなす網」であると考えます。
母なる大地と父なる大空を信奉する者として、私たちはこの世界を、私たち全てが「宇宙の生命」の一部となり、「多様性の中核」となり、そして「普遍の愛を伝えるメッセンジャー」となった場所だと見ています。
なぜなら、人類は地球上で最も知性に優れた動物だと言われているからです。
だとしたら、私たちの曾祖母や曾祖父である「母なる大地」と「父なる大空」は私たちに何を期待しているでしょうか。それはおそらく、私たちが普遍の愛を世に伝えるメッセンジャーとなり、人類の代理人としてこの惑星の存在の中核を護(まも)る存在となることであります。

では、この惑星の存在の中核とは何でしょうか。
皆さんはどう思われますか?
私たちは、それらを、「相互依存の法則」と「共存」であると考えます。その二つが、私たちの母なる大地と父なる大空が護り続けた、この惑星の中心的価値なのです。

母なる大地と父なる大空の最も優秀な娘や息子である私たちはこの中心的概念を常に意識して生活しているでしょうか。
この二つの中心的価値を社会、文化、政治、経済、環境、教育のシステムの中心に置いているでしょうか。
そのことを私たちは心配しています。

「相互依存」の代わりに、私たちの制度や構造の中心にあるのは「依存」と「自立」です。家族の構造、社会の構造、国家の構造、世界の構造——そのいずれにおいても、私たちが求めているのは、両極端である依存もしくは自立なのです。
その中間にある場所を、私たちは忘れています。仏教ではそれを「中道」と呼びます。この中間の場所が「相互依存」なのです。

皆さんは100%自立して生きられますか? たとえ1分でも、それは不可能でしょう。私たちには空気、水、大地、食べ物、そして愛情や保護などが必要なのです。
また、100%依存しているご自分の姿を想像してみてください。それがどういう状況か分かりますか? それは存在しないことを意味します。この地球上では、100%の依存も100%の自立も不可能です。そうした状況は「非存在」と言えるでしょう。それが真実です。

不幸にも、私たちは地球上で最も聡明な動物であるにもかかわらず、自分の存在と起源の中心的価値を忘れてしまっています。
相反するエネルギーの産物として、私たちはこの世界に存在を得ました。極めて異質なエネルギーを調和させることで、生命が宇宙に誕生したのです。
しかし誕生の瞬間から、私たちはずっと自分たちに似た人、そっくりな人々を探し求めてきました。私たちは、不可能に近いことを使命にしているのです。個人として、また集団として、私たちがしている努力とは、自分に似た者を見つけること、あるいは、全てを自分や自分たちに似た存在に変えることです。

一方で、私たちにはもう一つの使命があります。それは政治、経済、環境に関するものです。その使命のもと、私たちは個人から社会、国家、世界に至るすべてのレベルで互いに関わり合いながら、あらゆる人間を自分たちの下に置き、あるいは、私たち自身が誰かの下になって、生きていると言えます。

私たちは次第に曾祖父母さえも支配しようとするようになり、宇宙全体を支配し、母なる大地や父なる大空をコントロールしようとしていないでしょうか。
私たちはいまどこにいると思いますか。
私たちはいま、まるで噴火直前の火口に座っているかのようです。
環境面でも、社会、文化、経済、政治においても、また感情やスピリチュアルな面においても、私たちは燃え尽きんとする状況にあります。

炎(ファイアー)と恐怖(フィアー)が私たちの生活を支配している二つの要素です。私たちは、これを二つのFと呼びます。
このFで始まる二つの言葉が、個人、社会、そして地球レベルで、私たちの生活を支配しています。
さらに悲しいことに、自分たちの手でこの二つのFを母なる大地と父なる大空に注入してしまったために、私たちはいまや、世界共通の危機にあると言わねばなりません。それが、最も聡明な動物である人類が、その使命を通して生み出した結果です。

最も聡明な動物である私たち人類は、その使命を通して何を達成できたと思いますか?
私たちは考えます。私たち人類は、確かに、いくつか誇るべき偉業を達成しましたが、それと同時に、破壊的な所業も行いました。私たち人類は、一方では、美しく驚嘆に値する創造を成し遂げました。
それは、家族の仕組みから地球規模の政治・社会構造に至るまで、また1本のピンから巨大な工業製品に至るまで、そして文化から芸術に至るまで、あらゆるレベル、あらゆる部門に及ぶものです。

しかし、言うべきことは、そこにはオリジナルなものは何もないということです。全ては母なる自然の複製であり、その原型は母なる大地と父なる大空の手によるものです。曾祖母や曾祖父の為(な)せる業を見て、彼らの子孫は美しく、素晴らしく、偉大な複製をつくり上げました。私たち人類は自然をコピーし複製する名手です。その結果、自分たちは非常に明敏で聡明であると思い込み、その幻想の中に生きているのです。人類がいくら賢くても、その賢さは母なる自然には及びません。なぜなら自然こそが真の創造者だからです。

私たち人類は、母なる自然の創造物の一部はコピーできましたが、宇宙を管理し制御する自然の根幹にあるシステムをコピーすることはできませんでした。自己存在の根本真理である「相互依存」とのつながりが理解できなかったのです。その代わりに編み出したのは、そうした根本真理とは反対の、自己を管理し制御するシステムでした。唯一人類によるオリジナルな産物は、社会、政治、文化、経済、感情の各レベルにおける、管理・制御システムなのです。

そこで、すべてが狂い始めたのです。
そして、それに私たちCPBRは取り組もうとしています。
対決ではなく、取り組みです。

何が違ったのか、それはなぜか。正しい道とは何か。何をどうすれば私たちは、正しい道に戻れるのか。
それを、私たちは探求しています。
私たちが本来持っていた本質的な価値基準に戻り、「わが家」に帰るために、何ができるでしょうか。
それには、まず自分から、自分自身から始めなければならないこと、つまり「自己解体」と「自己変容」のプロセスが必要なことを、私たちは知りました。それは、これまでの知識を捨て去り、新たに学び直すことと言えるかもしれません。
そのためには、他人を探し求め、世界を発見しようとする前に、自分自身を発見しなくてはなりません。

CPBRの原点に自己発見と自己変容があるのはそのためです。それは私たちにとって、生涯で最も困難な使命です。
そこでは、宗教が手段になり得ると私たちは見ています。自己発見に向け、この内なる対話を始める上で有用な道具や乗り物はたくさんあります。
伝統的な社会では、宗教を活用し、青年に対しては、彼らの芸術的才能や創造力に訴え、女性に対しては、宗教、芸術、創造性、そして大地を活用します。

次のステップは、集団による変容です。私たちは、地域および全国のレベルで、周囲に同化せず、創造的、選択的にものごとを考え行動できる集団を生み出していきたいと思っています。多様性を認識し、受容し、尊重し、推奨する場所をつくることで、同じ宗教や民族の人々同士や宗教や民族を異にする人々が相集い、互いに理解し合い、それぞれが違いを保ちながら同じ価値基準を持つ集団を形成していく、そうした社会空間をつくっていきたいのです。

それは、多様な社会の人々が集うことのできる、共通で安全な社会空間や文化空間の創造であり、彼らが母なる自然の相互依存の法則を理解し、互いの共通点と相違点を認識し、違いに対処する技術と知識を身につけ、建設的な結果につなげることのできる場所をつくることです。
そして、地域ごとや全国レベルで、多様な宗派内・宗教間対話組織や、無宗教の(芸術の)組織をつくり、地域住民の声を全国レベルで届けたいと思います。

ある意味で、私たちには共通の使命があります。
それは、「相互依存」の技術を自己の存在の中心的価値として取り入れることです。そして、その技術を自己の存在のシステムや構造に刻み付けるための方法、取り組み、仕組みを探求することで、自分たちのライフスタイルを監督・制御していくことです。
そして、紛争を自然現象に模して見ることで、紛争から安全に脱却する機会を認識し把握する技術を培うことであり、暴力の文化ではなく、平和の文化を醸成することです。
言い換えれば、私たちスリランカ国民が直面している政治、経済、社会、文化や感情面の諸問題に対し、その解決に貢献すべく同時に地域レベルの使命に取り組んでいるのです。

私たちには二つの戦略的な目標があります。
1.社会・文化レベル。私たちは、単一の民族・宗教の共同体をつくるのではなく、多様な人々が結集してそれぞれの社会や共同体のシステムを刷新させ、社会全体で共通のニーズに対応していけるような、物理的・心理的な空間を築いています。状況を変えるため集団で取り組みを行う社会システムをつくりたいと思います。そのために開発したモデルの一つが、スリランカ国内の6カ所の主要箇所につくられた対話センターです。将来に向け、エコ・ビレッジ構想に基づいた「コミュニティー・ハブ(共同体拠点)」をモデル事業として計画中です。

2.政治戦略的な目標としては、多様な草の根共同体を組織化して一つの声にまとめることで、オピニオン形成ができるレベルに引き上げていくこと、また地域の草の根の声や全国から聞こえてくる声を一本化して、集団の意見として広げていくこと。また、草の根の声を政策立案の場に届けるための広報・ロビー活動も含まれます。
そのために私たちが実施したモデル事業が、「ピープルズ・フォーラム」です。
私たちは宗教間対話センターを通して、1年にわたり地域相談事業を続け、80の村落と内戦の被害を受けた主要4都市に住む子どもたち、青年、女性、男性、高齢者、宗教指導者と話し合い、スリランカの和解に向けた地域住民の提言を集めました。集められた提言は、政府、市民団体、国際社会の代表と著名な芸術家や活動家が参加し、2015年6月10日にコロンボで開催された全国集会に提出されました。この集会では、スリランカの4宗教の指導者とさまざまな地域共同体の指導者が一堂に会しました。集会は「ピープルズ・フォーラム」と呼ばれ、集まった提言を政策決定会議に持ち込むために、本年5月から全国的な広報・ロビー活動が始められています。
このモデルを試すために、私たちは宗教や地域の指導者を通して、伝統社会との協力を進めています。宗派内や宗教間で進めている対話や活動が、私たちの主要な手段です。この方法で私たちはこれまでに30000人近い人々と触れ合うことができました。

青年たちも、この世界に対して多くの意見を持っているに違いないと思います。しかし、それを声に出して主張する場所や自由が彼らにあるでしょうか。私たちの国では、青年による暴動がたくさん発生しました。
なぜでしょうか。
彼らには自分たちが暮らしている環境を変える必要があったのです。

私たちの「若き先覚者」構想は、「ボイス・オブ・イメージ(画像の声)」と「未来のリーダーたち」という二つの要素からなっています。
「ボイス・オブ・イメージ」は、青年を対象に、写真を通して内なる対話、人との対話、地域の対話、全国レベルの対話、宇宙との対話を行うための空間づくりをしています。それは、青年たちが多様なレンズを通して世界を眺め、自分の存在の中核とつながり、さらに他の人々や自分たちの曾祖父母、すなわち宇宙とつながろうとするのを助けるものです。

この構想を通して、私たちは「対話のための展示会」「行動に向けた対話」「変革への行動」と呼ばれるモデル事業を展開しました。
「対話のための展示会」は、青年たちに自分たちが住んでいる環境を自分たちの眼で見て理解する機会を提供します。青年たちの声は、地元や地域さらに全国レベルで行われる展示会を通して全国の人々に届けられます。展示会の後、展示写真に基づいて地域社会の他の分野の人々が対話を開始し、行動に向けたグループづくりを行います。

「行動に向けた対話」の段階以降は、地域住民と資源の動員・組織化を通し、「未来のリーダーたち」がつくるグループが、地域の問題への対応をリードしていきます。その方法は、写真展示や地域活動を通して、異なった地域社会間だけでなく同じ地域の住民の間にも橋を架けていくことです。

私たちはこの構想を通し、「私たちの国、私たちの人々」のテーマのもと、全ての青年写真家たちと彼らの作品を結集していきたいと思います。それを全国的な議論につなげ、青年のためのロビー団体をつくることで、社会、政治、経済、文化や感情面など、村々や地域の現実に対して彼等が発している声を全国に届けたいのです。「未来のリーダーたち」は、青年たちの声を大きくハッキリと、政策決定のテーブルに届けています。

環境に関連する要素を活動範囲に取り込むことで、平和構築の視野を広げていくためにはどうしたらよいか、現在、私たちはその可能性について調査を進めています。その調査は私たちの姉妹団体であるWOMAN(女性組織)が行っています。WOMANは女性たちが自分たちのためにつくった場所であり、自分たちが経験する全てのことを自分の眼で見て、読んで、理解し、解釈するための場所です。そこにあるのは、女性としてのアイデンティティーを保ちながら、自分たちだけでなく、あらゆる生命ある者に癒(いや)しを与えようとする、女性ならではの視点です。

WOMANの傘下で、私たちは次の項目について調査しています。
1.私たちが、自分自身の傷ついた魂と大地を癒し和解することを可能にする、宗教指導者としての女性の役割。
2.再生産、リサイクル、再現のための女性の役割。
3.子どもたちのために、より安全な地球をつくる女性の役割。
4.私たちの存在の中心的価値(多様性と相互依存)を次世代の思考様式に刻み込む芸術と文化の役割。

母なる自然の娘たちとして、WOMANのメンバーたちは、自分たちの眼でこの世界を探求し再解釈しようと結集しました。もし女性たちが都市をデザインしたら、どんな街ができるだろうかと、私たちは想像しています。女性たちが経済システムをデザインしたら、どうなるでしょうか。女性は宗教やスピリチュアリティーをどのようにリードするでしょうか。

人間関係を支配する権力に代えて、結びつきの力を発揮する方法や手段を探求する勇気を得るために、人間はどうしたら精神的に強くなれるのか、私たちはあらゆるレベルでその方法を探しています。私たち自身が生活の中でこれまでに何度も失敗してきたことですから、その難しさは分かっています。しかし、あらゆる瞬間を人生のレッスンととらえ、スリランカの危機の政治的解決に向けて権力の分配を推し進めるために、私たちは結びつきの力を基盤とするシステムや構造の開発を進めています。

私たちの哲学的基盤は相互依存です。
私たちの政治的基盤は、結びつきの力による権力の分散化です。
私たちの精神的基盤は母なる大地と父なる大空です。
そうした分野に関わるために、私たちが導入している主な手段は「対話」です。

内的対話
個人相互の対話
集団内の対話
集団間の対話
地域間の対話
全国的な対話
自然と交わす静かな対話

炎(ファイアー)と恐怖(フィアー)という、二つのFへの対応。
私たちのアプローチは、ハート、ヘッド、ハンド、ヘルスという四つのH。
パワーは、ブレーン(脳)とブレス(呼吸)という二つのB。
強さは、コンパッション(慈悲)、コミットメント(献身)、クリエイティビティー(創造性)という三つのC。
推進力は、インテグリティー(誠実さ)、インターデペンデンス(相互依存)、イマジネーション(想像力)の三つのI。
私たちは自己の存在とのつながりを求めて前進を続けます。その旅の途上で、本日、私たちは皆さんの前に立っています。私たちが感じ、考えていること、そして私たちの行動を分かち合い、母なる大地と父なる大空、すなわち母なる自然の娘や息子としてお返しをするために。ご清聴ありがとうございます。

CPBRの家族として、私たちの考えを共に分かち合う機会を与えて頂き、こころから感謝申し上げます。人生の旅の途中で出会った素晴らしい人々——私たちを信頼し、己の信じることを信じ、支持するものを支持することの大切さに気づかせてくれた人々に、心からの感謝を捧げます。そして、家族としての責務を一切求めず、愛情の絆によって家庭の束縛から私たちを自由にしてくれた家族に感謝します。

私たちを信頼してくださった庭野平和財団と庭野平和賞委員会の全てのメンバーの皆さまに感謝申し上げます。信頼は人が人に与えることのできる最大の贈り物のひとつです。それを皆さまの一人ひとりが、私たちにくださいました。私たちは、それを自分たちに課せられた責務としてお受けします。

自分自身や子どもたちのためにつくったこの世界に対し、私たちは平等の責任を負っていると強く思います。今こそ立ち止まって振り返り、自分自身の心に問いかける時です。「私たちは子どもたちや孫たちに安全な地球を手渡すために、責任ある態度で自分たちの責務を果たしただろうか」と。

その答えは、真の誠実さが求められる心の最も奥深い場所から発せられたものでなくてはなりません。そして、その答えは、この地球上で自分たちがこうありたいと願う人間になるよう私たちを導くものです。
この重大な時に、私たちみんなが心底から正直になれることを願っています。それは、彼女が泣いているからです。
母なる自然は深く傷つき、涙を流しています。
彼女の子どもたちも深く傷つき、涙を流しています。

もし、私たちの全てが1分だけでも立ち止まり耳を傾けることができたら、泣いている声が聞こえるに違いありません。
ただ聞き流すだけでなく、悲しみに満ちたその声に真剣に耳を傾けたとき、私たちはもうじっとしていられなくなります。動かなくてはなりません。何かをしなくてなりません。みんなで、何かをしなくてはならないのです。
私たちは皆、共に働くことを心から願い、その夢を実現する意思を持ち、いま私たちがいる場所から歩き出す勇気を持っている、私はそう確信しています。
ありがとうございました。

(2016年5月19日記載)