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2016年09月15日 現地レポート

難民の現状と本会の取り組み


ベイルート郊外にあるシャティラキャンプ内の風景

レバノンでは、1948年のイスラエル建国によって故郷を追われたパレスチナ難民が、今も各地の難民キャンプで生活を送っている。近年、隣国シリアからも内戦を逃れた人々が流入。現在、レバノン国内の難民は正式登録者だけで約50万人に上る。難民たちは劣悪な環境下に置かれ、就労の自由も制限されていることから、特に若者たちの間に閉塞(へいそく)感が広がっている。15年に及んだ内戦、政情不安、イスラエルとの緊張関係といった国情も難民の窮状に拍車をかけている。
こうした状況を受け、本会は子供たちに夢と希望を届ける「ゆめポッケ」を、99年から現地に贈り続けてきた。これまでに届けられたゆめポッケは約26万個に上る。また、国内の看護師不足の緩和と難民の就労支援を目的に、88年から「パレスチナ難民看護師養成事業」を実施。約200人の看護学生に奨学金を支給してきた。それぞれ一食平和基金の浄財が充てられている。
今回、光祥次代会長と一食平和基金運営委員会の根本昌廣委員長、事務局スタッフらは、国内に12ある難民キャンプのうち5カ所を訪問。難民の生活や支援事業を視察したほか、三つの学校でゆめポッケを配付した。また、7軒の家庭で、今回ならびに過去にゆめポッケを受け取った子供たちと交流した。

希望を届ける ゆめポッケ


ゆめポッケはレバノンの難民キャンプで暮らす子供たちに"笑顔"を届けている(ワウエレ難民キャンプのタバライヤ小学校で)

一行を乗せたバスはレバノン軍が設置する数カ所のチェックポイントを通過し、シリア国境に近いワウエレ難民キャンプに到着した。キャンプにはパレスチナ難民に加え、近年は、内戦が続くシリアからの難民が身を寄せ、現在、約5000人が暮らす。
「ここでは経済、医療、教育、人権などあらゆる問題が山積している。つらい生活だが、その中にあって、ゆめポッケは子供たちの宝物。日本の代名詞にもなっている」と、同キャンプのアジザ・シャディ所長が説明した。
キャンプ内にあるタバライヤ小学校には、夏休み中にもかかわらず、大勢の子供たちが集まっていた。一行が紹介されると、子供たちから大きな拍手が起こった。
一行は子供たちにゆめポッケを配付。光祥次代会長も一人ひとりに笑顔で声をかけ、肩を抱きながら手渡した。子供たちは早速ゆめポッケを開け、カラーペンやノート、ぬいぐるみ、ボールなどを互いに見せ合った。
ゆめポッケを受け取った少女(9)は「今日を楽しみにしていました。ポッケを贈ってくれた日本の人たちに『ありがとう』と伝えたい。ガザ(パレスチナ自治区)にいる子供たちにもポッケが届くように願っています」と語った。
現地でゆめポッケを配付するNGO「ベイト」のスタッフは、「私たちの力には限りがありますが、無力ではありません。できる限りの愛と優しさを子供たちに与え続けていきたい」と話した。
一行はキャンプ内の家庭を訪問。三女(8)は、うれしそうに1冊のノートを見せた。昨年受け取ったゆめポッケに入っていたものだ。彼女はそのノートに日本の子供たちの写真や折り紙、励ましのメッセージなどを貼り、大切にしていた。「私が描いたの」。そう言って開いたページには、日本とレバノンの国旗、そして、日本人とパレスチナ人が手をつなぐ様子が描かれていた。

看護師資格に夢を託して


マカセッド大学看護学部の学生や卒業生たち。「一食運動」の説明に真剣に耳を傾ける

レバノンの難民キャンプで暮らす人々の法的地位は低く、職業も制限されている。その中で、看護師はパレスチナ人にも就労の道が開かれた数少ない職業だ。看護師不足という国内の事情もあり、人気の仕事となっている。
一食平和基金が資金助成する「パレスチナ難民看護師養成事業」はこうした状況を踏まえて実施されている。マカセッド大学の看護学生に国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通して、毎年、総額5万ドル(約500万円)の奨学金を支給。現在、7人の学生が受給している。
一行は、ベイルート市内にある同大学で教職員から教育課程などの説明を受けた後、奨学生や、卒業後に看護師として働く人たちと懇談した。彼女たちは、本会会員が食事を抜いて、その分を献金した浄財が奨学金の財源になっていると知り、目に涙を浮かべた。「日本のみんなに感謝を伝えたい」と語り、「皆さんの誇りになれる私になります」など、それぞれがメッセージを寄せた。一人の学生は「私も『一食運動』に参加します」と話した。光祥次代会長は、「皆さんを思っている人が日本にいることを忘れないでください。パレスチナの人たちが夢を持って生きられるよう願っています」と学生らに伝えた。

諸宗教者と対話重ねる


イスラーム・スンニ派最高法学者のアベド‐エラティフ・デリアン師と面会する光祥次代会長

光祥次代会長は、イスラームやキリスト教などの宗教指導者6人と面会、平和に向けた宗教者の役割や、宗教間対話の重要性などについて意見を交わした。
イスラーム・シーア派最高指導者のアブドゥル・アメール・カバラン師との会見では、カバラン師が「クルアーン(イスラーム聖典)には、人々と対話する時は愛と尊敬を持つことが大切と書かれている。これが対話の最善の方法だ」と強調。これを受けて、光祥次代会長は「宗教間対話の価値を信じて、たとえ難しい状況でも人々の希望になるような勇気づけをしていきたい。仏教徒として他宗教の証明役をさせて頂きたい」と語った。
光祥次代会長は、在レバノンのパレスチナ大使と面会したほか、在レバノン日本大使公邸での歓迎夕食会に招かれた。

(2016年9月15日記載)